CARRY ME代表 大澤亮 特集

土屋鞄の元役員がはじめて語る土屋鞄の売上、利益が急成長した本当の理由

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大澤亮

土屋鞄製造所は、大澤が知る限り、日本ではじめてEC(ネットショップ)として、「ブランディング」に成功した会社である。
こちらの会社が急成長した2007年から2009年まで、運よく取締役として携わらせて頂いた経験から、「元役員が語る土屋鞄が急成長した本当の理由」を、公開しようと思う。

土屋鞄のあの急成長の秘密を教えよう

ちなみに、先日、トーマツイノベーションでの経営者・人事責任者向けに講師をさせていただいた際、事後アンケートに以下のコメントがあった。

「親類に土屋鞄に就業している者がいるが、大澤さんの革命の印象が大きかったらしく、その中身が知りたくて、今回参加しました。自社に適応できるものも多く、有益だった。」

※この際の勉強会タイトルは、「知名度がない会社でも優秀な人材を採用する仕組み」という経営者、人事向けのものでした。

土屋鞄で「革命」と呼べるほどの大きなものを起こせたかどうかはわからないが、明らかに参画前と後で変えた方法や仕組みがある。

すべては公開できないので、要点を抑えて公開していく。
また、土屋鞄製造所での経験だけでなく、自ら1999年にECで起業(黒字化させサイバーエージェントに売却)した経験、ドリームインキュベータでのコンサルティング業務の経験も多少踏まえて、まとめてみた。
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CARRY ME(弊社)の代表の大澤は、土屋鞄製造所に2007年に取締役として入社。
当時はまだ、社員数15,6人の小さな組織、ごくごく小さな工房に隣接して事務所がある零細企業だった。
足立区の花畑という、つくばエクスプレスの青井駅という、最寄りの駅から、徒歩ではとても歩けない距離(たぶん徒歩30分以上)にオフィスも工房もあり、土屋社長に出迎えに来てもらったのを今でも覚えている。

そんな会社が(それまでも伸びてはいたが)、ちょうど大澤入社前後から、売上、利益も急成長、僕が在籍していた2009年までに売上、利益ともに2年で約2倍の売上50億円、経常利益約5億円と急成長した。驚愕すべきは、そのEC比率で、当時で約50%がECからの売上である。
社員数も20人前後から75人程度に一気に3倍近くになった。

この時期に「土屋鞄の役員だった」というと、皆さんにすごく驚かれる。
会社経営者、特にECに興味のある方には「なぜあんなに急成長したのですか?」と聞かれる。

「なぜだと思いますか?」
というと、大抵、間違った、というか、ピントの外れた答えが返ってくる。

「広告予算を初期に相当分使ったから」
「社長にカリスマ性があったから」
「匠の技」というコンセプトが良かったから」
「商品のクオリティーが素晴らしかったから」
「SPAというビジネスモデルだから」
どれも理由としては、間違ってはないが、成長した最大の要因、本質ではない。

では、何が成長させたのか?

その理由は、大きく2つ!

もちろん「2007年に大澤が加入したから急成長した」などと言うつもりはない(笑)。

大澤が考える急成長した理由は2つ。

1つ目は、ECの最大のKSF(=Key Success Factor、成功のための最重要要因) である
「いかにリピートしてもらうか」
「そのためのブランディングをいかに実施するか」

を社長、役員、社員全員が理解し、そこにリソースを「本気で投入」していたから、である。他社が新規顧客獲得に躍起になっている間に、地道に、ブランディングにはこだわり続けていた事実がある。
2つ目は、それを支える組織体制、人材採用の仕組み、である。なんとEC経験者は殆ど採用せずに、未経験の社員ばかりで成長を続けている!そこには知られざる仕組みがあった。

まず、1つ目のリピートしてもらう仕組みがいかに重要かを説明しよう

大澤が知り得る限り、ほとんどのEC業者は新規顧客獲得を重視する。
1人獲得コスト(CPA)を計算し、広告、SEO、など駆使して、なんとか低コストで顧客を獲得するよう営業努力をしている。しかし、そんなことに躍起になっていてもECは成功しない。

もちろん、土屋鞄もそこはそれなりには意識した。
しかし、そこがECの成功の本質ではないと理解していた経営陣やWebチームは、体制やリソース配分を明確に、ファン重視、リピート重視にしていた。

なぜリピートがそれほど重要なのか?
言うまでもなく、ECは競合激化しやすく顧客獲得コストが膨大にかかる。
そうすると、1回購入してもらっただけでは元はとれない(利益は出ない)。
だから、何回も買ってもらえるよう、「広告をかけずにファンづくりを行う」ことで、ファンがリピートし、利益が生み出される。

以下は、仮の数値だが、
鞄や財布等の平均的な初期の購入単価が3万円だとする。
「最初に購入してから3年でどのくらいリピートしてくれるか」、が非常に重要で、土屋鞄の場合は、その後、3年で5回も6回も購入し、その間での1人あたりの売上が20万円、30万円という顧客も多くいた。

そうすると、顧客1人あたりの獲得コストが仮に2万円だとしても、原価率を考慮しても十分すぎるほど利益が出ている。

仮にリピートしなかったとすると、購入単価3万円、顧客獲得コスト2万円、原価、関連コストを考えると完全に大赤字であることはおわかりだろう。

では、どのようにリピートを促進したのか? リピート促進のポイントも2つ

ランドセルからバッグなど一般革製品へ(もしくはその逆)、ECから店舗へ(もしくはその逆)の購入を促進

商品カテゴリーがランドセルと、一般革製品(バッグや財布など)に分かれているので双方での購入促進が必要なこと、流通は、実店舗とECの両方あることからこちらも双方での購入促進が必要となるので、「さまざまな施策」を活用した(実店舗、といっても当時は足立区の工房に隣接している小さな店舗と、鎌倉に2店目を構えたばかりだった)。

特に、土屋鞄の場合はランドセルの顧客は子供達ではなく、両親や祖父母たち、そして彼らは十分な予算を持っている!ところがミソで、こうした顧客層は1度ファンになっていれば、一般鞄も自然な流れで勧められることにより購入につながるのだ。

流通でのリピート促進も同じである。ECからECでのリピート、店舗から店舗へのリピートはもちろんのこと、ECでの購入客が店舗でも購入するよう、もしくは店舗での購入客がネットでも購入するよう、「様々な施策」を活用した。

「さまざまな施策」のうち重要なものを3つだけ、有効なツールを例として挙げると、メルマガとカタログ、それから今でいうオウンドメディア(当時はそのようなマーケティング用語はなかったように思う)である。

メルマガには、企画からHTMLメルマガ制作・発行まで、複数(大体4,5人)が関わって、1本創るのに1週間もかけていた!大体「メルマガなんて送ってもどうせ、10%くらいしか読まれないし、数時間で書かないとコスパが悪い」など考えてないだろうか?

実はその逆で、数時間しかかけていない想いのこもったメルマガではないから、読まれない、効果がないのである。試しに、土屋鞄のメルマガを購読してみると良いと思う。あまりの出来栄えの良さにびっくりし、買わされることは間違いない(笑)。

カタログにおいても外注で済ませるのではなく、自社で相当手間をかけていた。「なんとなく」ではなく、「ランドセルを購入してくれたお客様に、一般鞄を購入して頂く」という具体的な目的あってのカタログ製作なので当然である。

そして、オウンドメディア。
当時は、オウンドメディアというWebマーケティング用語もなかった時代。

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「土屋Library」というページを自社内のページにつくり、そこで、「商品ではないが、商品や会社に遠くもない、かつ読み物として楽しんで頂けそうなコンテンツ」をストーリーとして、書き溜めていた。

例えば、職人の顔、様子がわかるようなもの、革の見分け方やちょっとした雑学など、である。
これも、もちろん、ファンを創るためである。
こうしたコンテンツなどは即効性のあるものではないが、こだわりを持って、1つひとつの記事を地道にコツコツと創り続けることで、6か月後、1年後、2年後と効果が出てきたものだ。

他にもさまざまな施策があったが、かなりの部分「リピート化してもらうためのファンづくり、ブランディング」のための施策に重点を置いていた。

クリエイティブやコンセプトの統一

2つ目のポイントは、ブランディングを意識したクリエイティブやコンセプトの統一である。
よく、「土屋鞄って画像がすごいきれいだよね?」と言われるが、こだわっているのは画像だけではない、という意味では正解ではない。前述した、メルマガ、画像、言葉の選び方(コピー)など、クリエイティブ、コンセプトづくり、すべてにこだわって、統一している。

リピートを考えるときに、まず「最初のお客様はなぜ買ってくれたのであろうか?」と考えることが重要である。

お客様は意識していないかもしれないが、通常は商品が気に入った、ショップのコンセプトに共感する、バッグの色合いがきれいだから、などいろいろ複数絡み合っている。

とすると、リピートしてもらうためには、1度買ったお客様は何かに共感もしくは気に入ってくれたから購入したはずなので、そこを一気通貫で全てのクリエイティブやコンセプトを統一することが重要となる。

クリエイティブは、
具体的には、
A.会社やショップについて
B.商品デザインやストーリー
C.販売ツール(Webデザインやカタログ、店舗設計など)という3つのカテゴリーがあり、それらも当然統一していた。

これらがどこから入っても、「その人のお気に入り」のテイストであれば、ファンとなりやすく、リピートもしやすくなる。
逆に、土屋鞄の鞄がなぜ売れるのか全く意味が分からない(好きではない)という人も多いが、それはどこからとってもその人の好みではないのだから当たり前である。

言い換えれば、自社の顧客層以外は「捨てる」という感覚も重要である。

上記、1. も2. も、もちろん一筋縄ではいかない。
広告のテクニックなどの小手先の技術ではなく、いかに顧客を愛し、顧客のためのものづくり、コンテンツづくりをじっくりと数年かけても創れるか、という強い想い、ヴィジョンがあって成り立つものだと思う。

もう1つの土屋鞄の急成長の理由は?

さて、長くなったが、もう1つの土屋鞄の急成長の理由を挙げよう。

それはリピートを重視する組織体制、人材の採用方法にあった。
冒頭にも書いたが、なんと、EC中心の会社にも関わらず、中途入社としては大澤以外はEC経験者はゼロであった。(少なくとも当時)

なんとしてでも「中途で経験者を採用しなければ」、と思っている経営者、人事の方は、ちょっと踏みとどまって考えてほしい。

「なぜ経験者の正社員が必要なのか?」

上記のとおり、リピートのポイントの1つはクリエイティブ、コンセプトの統一である。
だとすると、販売(EC含め)に関わるすべての採用は、「未経験でもセンスがあれば良いじゃない?」という考え方で、

「未経験の若手で、センスのあるor合う個人をどんどん採用し、育成していた」
というのが実施した方法である。

そして、それを誰が育てるのか?
3年目や上司は土屋鞄の場合は全員プレーヤーの感覚だったのであまり育成には手を回せない。

そうしたときに、商品開発、マーケティング等、様々な個所で「外部のプロ人材」を入れて、「育成+実務」をしてもらっていた。
外部のプロ人材はよくある50代や60代でアドバイスするだけの「顧問」的な立場ではなく、
ほぼ30代や40代の現役バリバリの、弊社CARRY MEでいう「助っ人プロ」である。

こうしたプロの人材はなかなか正社員では採用できないし、採用できたとしても年収1000万円、2000万円と膨大な費用、しかも固定費となってしまう。
(実際に、土屋鞄では、こうした超優秀なプロの方に、正社員になってくれないかと相談したこともあったらしいが、膨大な人件費になると経営陣は頭を抱えていた)

そこで、「外部のプロ人材」と、「未経験の若手」をある意味セットで採用し、育成していくことで、
・未経験者の採用なので採用コストが安く、給与も抑えやすい (当然成果が出れば年収はあがっていく)
・育成してもらっている感覚があるので離職率が下がる
・外部のプロ人材を部分的に(週2回出社など)活用することでプロ人材の採用コストも抑えられる
というメリットを享受していた。

つまり、コスパが良い、という意味では非常に合理的な仕組みを活用していた。

さらに、「メンター制度」という社員の先輩が後輩に定期的に教える仕組みもつくり、実際に、未経験で入社した若手の中から、Webチームでも、デザイナーチームでも「エース級の人材」が育っていった。
転職でいう中途半端ないわゆる「経験者人材」より、土屋鞄の個人の方が相当優秀な人材に育ったと思う。

ちなみに、大澤が入社した際には、「エース級」といわれる人材は既に正社員で活躍していた。
が、その後その社員は退職し、それでも次のエースが何人も育っているため、支障なく成長し続けていられる。

土屋鞄の経営陣は、上記のような仕組みをそれほど意識していたわけでなく、
「経験者を採用しても採用コストは高いし、年収も高いし、かといって、社内の経験者とやり方が違うし成果が出るとも限らず、かつ辞められるリスクもある。
ECといってもどの企業でもやり方はそれぞれ違うし、そのやり方も合うとは限らないので、未経験で十分ではないか。
外部のプロ人材に教えてもらえれば忙しい正社員の手間も省ける」
と、思って実施していた。

未経験でも社内で売れる仕組みを持っている、もしくは外部で適宜その仕組みを調達できれば十分に効率よくまわせる、という話である。

採用に限らず、一度、いまの当たり前だと思っている方針、やり方を疑ってみる、ということはいかに大切か、ということだと思う。

まとめ

まとめると、土屋鞄が急成長できたのは、
・リピートを意識したブランディング、そのための細部におけるクリエイティブの統一
・それを、それほどコストをかけずに「外部のプロ人材への業務委託 プラス 未経験の若手人材の採用、プロ人材には育成も委託」という仕組みを導入し、支えていた。
という2点が極めて重要な要因だった、というお話である。

最後に、ブランドに関わっている方、土屋鞄の現役正社員の方々で、上記の成功要因に一見関係のないと思われるポジションにいる方(例えば製造やCSなど)は、この記事を読んでガッカリしないで欲しい。

工房で鞄や財布を創っている職人の皆さん、CS(カスタマーサポート)の皆さん、など全員が成功要因に関わっていることは間違いない。

特に成功要因の1つの「リピートのためのブランディング」は、商品のデザインのみならずクオリティー、CSの電話やメール等での一言一言も深くかかわってくる。

何より、土屋鞄の社長をはじめ、みんなで創った企業文化が、特に「職人を大切にする」、「日本の職人文化を守り続けないといけない」、という想いからきていることは、社員や元社員の方々は実感していることと思う。

ちなみに、大澤はこの土屋鞄で2年半の間、どんな変化を起こしたのか? 気になる方、ECやプロ人材の採用にご興味ある経営者、人事の方は以下までご連絡ください。
info@carryme.jp
上記で公開できなかったお伝えできる部分も可能な範囲で大澤が直接お会いしてお話します。

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この記事を書いた人

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大澤 亮

5度の事業立ち上げを経験し、過去に2度事業売却したシリアルアントレプレナー。
1996年に新卒で三菱商事株式会社に入社、タンザニア駐在経験(ODA担当)を経て、帰国。同社退職後、1999年に慶應義塾大学大学院(経営管理研究科修士課程)に入学と同時に起業、2度売却。(日本初の比較サイトを創業し米国企業に売却、EC事業を設立しサイバーエージェント社に売却)

その後、株式会社ドリームインキュベータに入社し、大手企業とベンチャー企業両方の経営コンサルティング、ベンチャー企業投資も担当。同社退職後、土屋鞄製造所に取締役兼C.O.O.として入社し、2年で売上20億円から45億円、経常利益も2倍以上にして退職。その間、人事担当役員として数百人を面接。

2009年 株式会社Piece to Peaceを創業、2013年にスキルのマッチングプラットフォームshAIR(シェア)を創業し、会員1万人に。2015年には、週2、3回で業務委託契約で働くプロ人材(助っ人プロ)と、人手不足の企業の仲介サービス「CARRY ME」のコンセプトを立ち上げ、1年で黒字化達成。300人以上の経営者や人事担当者から採用の相談にも応じている。
著書 「世界をよくする仕事で稼ぐ」 (プレジデント社より出版)

アカデミーヒルズ(六本木)等での講演多数。

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