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個人事業主から法人に切り替えるベストタイミングとは?

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個人事業主から法人に切り替えるベストタイミング

個人事業と法人、どちらがいいですか?

起業の相談を受けるとき、このような相談をよく受けます。

「個人事業と法人、どちらがいいですか?」

基本的には個人事業から始めて、どこかのタイミングで法人にしたほうが良いです。

いきなり法人から始めるケースは特別な事情がある場合ですね。例えば、取引先が「法人ではければ取引をしない」という条件がある場合。
ビルのテナントに入るときに、法人でなければ入ることができない場合など。

個人事業から始めた方が良い理由と法人設立を検討するタイミング

なぜ、個人事業から始めたほうが良いのか?

一番の理由は消費税です。

事業を始めて2年間は消費税の免税事業者となります。特にこれからは消費税が10%となるので、2年間消費税が免除されるのはかなり大きなメリットといえます。

注意しなければいけないのが、事業を始めた年の6月30日まで給与総額が1,000万円を超えると、消費税の免除期間は1年間となります。ただ個人事業を始めて、6月30日までの社員の給与総額が1,000万円を超えることはほぼないと思いますので、あまり気にしなくてよいでしょう。

個人事業の場合は締め日が12月31日になります。1年目の売上高が1,000万円以下、かつ、2年目の6月30日までの給与総額が1,000万円以下であれば3年目も消費税は免除されます。1年目の12月31日までの売上高が1,000万円を超える場合、または、2年目の6月30日までの給与総額が1,000万円を超える場合は3年目から消費税の課税事業者となります。

その3年目の消費税の課税事業者となるタイミングで法人設立を検討してください。
例えば、個人事業を2018年に開始して、2018年の売上高が1,000万円を超えると、2020年1月から消費税の課税事業者となります。2020年1月に法人を設立すると、個人事業と同じように1期目2期目は消費税が免除されます。そうすると個人事業2年、法人2期で最大24か月分消費税が免除されることとなります

法人設立をする前に知っておきたいポイント

法人設立を検討するタイミング

法人を設立する際に決めなければいけないことがあります。それは決算月をいつにするか?個人事業は12月31日で締めて決算を行いますが、法人の決算日は自由に設定することができます。日本の場合は5社に1社が3月決算法人です。これは日本の年度が4月始まりになっているため、その影響から3月決算が多くなる傾向にあります。

では決算月はいつにすればよいのか?ポイントは大きく2つあります。

消費税の免税期間

まず1つ目は消費税の免税期間ができるだけ長くなるように設定することです。

例えば2つのケースを見てみましょう。

① 法人設立を2020年1月、決算を3月に設定した場合
1期目は期間が短く2020年1月~3月、2期目が2020年4月~2021年3月となります。2期合わせて15カ月間が消費税の免税期間となります。
② 法人設立を2020年1月、決算を12月に設定した場合
1期目が2020年1月~12月、2期目が2021年1月~12月。2期合わせて24カ月間が消費税の免税期間となります。

①と②を比較した場合②の方が消費税の免税期間が長くなるので有利です。

事業を開始する月もポイントです。

上記のような法人で3月決算にしたい場合は、あえて2020年1月に法人にせず、2020年4月に法人を設立します。この場合、2020年1月~3月までの3か月間は個人事業として消費税の課税事業者となります。3か月間は消費税の課税事業者となりますが、法人の1期目が2020年4月~2021年3月、2期目が2021年4月~2022年3月となります。この場合、個人事業で消費税の課税事業者となる期間が3か月発生しますが、法人を設立すれば消費税の免税期間は2期合わせて24カ月となります。

法人税対策

2つ目は法人税対策を考慮して決算月を決めることです。

1年間を通して売上、利益が下がる時期を決算月にすることをお勧めします。

例えば、衣料品小売店の場合は8月に売上が下がり、9月ぐらいから秋冬物が売れ出します。このような場合は8月を決算に設定することをお勧めします。

なぜそうするかというと、例えば、決算の着地見込みの利益が1,500万円の場合、法人税の節税対策として利益を800万ぐらいに抑えたいと考え、経費を700万円分使ったとします。その通りになればよいですが、最後の決算月に予想以上の売上と利益が出た場合、700万円分の経費では法人税対策としては足りなかったという事態になります。そうならないためにも、売上と利益が多くなる時期は事業年度の最初の時期にもってきます。

そうすると決算まで時間が十分にあるため、計画的に節税対策を行うことができます。決算月は売上と利益があまり上がらない予想しやすい月に設定することをお勧めします。

決算月は上記の2つのポイントを考慮して決めてください。

注意!1期目2期目から消費税が免除されなくなってしまうケース

消費税が免除
法人は2期までは消費税が免除されることをお伝えしましたが、法人も個人事業と同じで、1期目2期目から消費税の課税事業者となるケースがいくつかありますので簡単に3つのパターンを説明します。

① 法人を設立する際の資本金が1,000万円以上であれば、1期目から消費税の課税事業者となるので注意してください。資本金は1,000万円未満で設定してください。

設立後6カ月以内の給与総額が1,000万円を超えると2期目から消費税の課税事業者となります。ただ、1期目が7カ月以内の事業年度であれば、この規定は適用されません。

株主が売上5億以上の親会社の場合は1期目から消費税の課税事業者となります。

ここまでは消費税の節税の観点から法人設立のタイミングをお伝えしましたが、消費税は他にも細かな要件が多々ありますので、詳しくは顧問税理士にご確認ください。

所得税

次は所得税の節税の観点からです。

個人事業は所得(利益)に所得税と住民税が課税されます。所得税は累進課税といって、所得が多くなるほど税率が上がり、最低は5%~最高は45%。住民税は一律10%です。これに対し法人は利益に対して一定の法人税が課税され実効税率は約33%です。

所得が低ければ法人税より所得税の方が税率が低いので、個人事業の方が節税になります。所得がある一定ラインを超えると、所得税と住民税の税率が合わせて法人税の実効税率である33%を超えるので、法人を設立したほうが節税になります。

問題はその一定ラインとはいくらなのか?

これは個人の状況により異なってくるので一概には言えません。扶養親族が多い場合は一定ラインは高くなります。住宅ローン減税を受けている場合は所得が高くても所得税と住民税がほとんどかからなかったりします。

個人の状況に合わせてシュミレーションをするのが確実ですが、ざっくり所得が800万~1,000万円に達したら法人化を検討することをお勧めします。

今回は、節税の観点から法人を設立するタイミングと、決算月の考え方をお伝えしました。
実は法人を設立するタイミングで、必ず頭に入れておかなければならい小規模企業共済制度があります。この制度をどのように活用するかで、生涯手取り額に大きな影響を及ぼします。次回はその小規模企業共済制度について詳しく解説いたします。


会社の運命を変える究極の資金繰り

著者名
菅原 由一
出版社
幻冬舎
出版日
2018年8月2日
定価
1,620円

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この記事を書いた人

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菅原由一(すがわらゆういち)

1975年三重県生まれ。税理士。法律、制度を駆使した資金調達のスペシャリストが集まる組織SMGグループのCEOを務める。東京、名古屋、大阪、三重に拠点を置き、中小企業の資金繰りコンサルタントとして活躍。
ブログ『菅原の経営のヒント!』は税理士人気ブログランキング第1位を獲得。菅原自らが塾長を務めるSMG経営者塾は延べ受講者数5,000名を超え、クライアント企業の黒字割合85%を実現する。
TV、専門誌、新聞、各メディアからの取材も多く、ラジオの経営番組ではレギュラーコメンテーターを務め、Google、ミズノなど外資系や上場企業からの講演依頼も多数。クラウド、ビデオ会議システムを駆使して、全国の中小企業に最新の情報を提供し、資金繰り改善のサポートを行っている。
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