フリーランスが法人化するメリットやタイミングは?中小企業診断士が分かりやすく解説!
フリーランスとして個人で活動している人なら、独立した、報酬が上がったといった節目に法人化を検討することもあるでしょう。
節税できる点や、社会保険や健康保険、厚生年金など保障が手厚くなることが法人化のメリットです。また、法人化には金銭的なメリットが大きいことから、フリーランス(個人事業主)が法人化する目安が売り上げや所得金額に偏って考えられてしまっている側面もあります。
「もちろん売り上げは一つの重要な目安です。でも、それだけに縛られてしまうと自分がやりたいこと、法人化したことを忘れてしまう。それは悲しいことだと思うんです」
こう教えてくれたのは、自身も約10年間フリーランスを経験した後に法人化した中小企業診断士/経営コンサルタントの岩瀬敦智さん。
ご自身の経験や支援企業の事例も含め、法人化のメリットやタイミング、その意義について分かりやすく教えていただきました。
フリーランスが法人化するメリットは信用とお金
- 岩瀬 敦智(いわせ あつとも)
- 経営コンサルタント。中小企業診断士。株式会社コンセライズ代表取締役。企業価値を可視化し、社内外へ浸透させるコンサルティングを行っている。特に中核人材に企業固有の価値と、経営理論を伝えることでリーダー人材の視座を高める講演や研修に定評がある。主著として、「MBAエッセンシャルズ(第3版)」共著(東洋経済新報社)、「マーケティング・リサーチ(DO BOOKSマーケティング・ベーシック・セレクション・シリーズ)」共著(同文舘出版)など。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科(MBAスクール)兼任講師。神奈川大学国際経営学科客員研究員。中小企業診断士に向けた政策研修講師。
HP https://consellize.com/
ー早速ですが、フリーランスと法人の違いについて、ぜひ専門的な立場から教えてください。
岩瀬さん:端的に言うと信用とお金の違いですね。具体的には、以下の表の通りになります。
私は10年近くフリーランスの中小企業診断士として活動後、2019年に経営コンサルティング・研修企画運営・研修講師派遣を行う株式会社コンセライズを設立しました。
仕事柄、フリーランスから法人化される方を多く見てきましたが、皆さん共通して法人化で社会的信用が上がり、収入や保障の在り方に大きく変化が起こります。
フリーランスが法人化するメリット「社会的信用」が上がった事例とは?
ーそれは、法人化した方が信用面でも金銭面でもメリットがあるということでしょうか?
社会的信用という面では間違いなくメリットがあります。
私自身も、フリーランスとして個人で活動しているときに「岩瀬さんには仕事を頼んでみたいけど、当社は個人事業主と取引ができない」と言われたことがあります。法人を設立してからは大きな企業や組織と取引ができるようになりました。
また、BtoBで事業を展開している、ECなど無店舗でビジネスを行っている場合は法人化によって社会的信用が上がり、それが売り上げに直結することもあります。
私の中小企業診断士仲間の一人は、法人化した瞬間に問い合わせが増えたのだそうです。
彼は、フリーランス時代からHPを開設し、屋号を持って活動していました。HPはフリーランス時代とほぼ変わっておらず、変わったのは株式会社になったことと、オフィスを自宅とは別に持ったことくらいでした。
中小企業診断士は、企業様に対して補助金や創業支援など、中小企業に関する国の施策を伝える役割があります。ですから、法人化することで企業様からの社会的信用が上がり、問い合わせが増えたのでしょう。
ー一般的に、金融機関からの見方も変わると聞きます。具体的な事例があれば教えてください。
おっしゃる通り、金融機関から融資が受けられるかも社会的信用のポイントの一つです。
私の知人に日本政策金融公庫の融資担当者がいます。その方が事業融資でチェックするのは、ビジネスプランと経営者個人の資質だそうです。
「経営者個人の資質」と聞くと非常に抽象的ですが、その事業の運営が個人事業主なのか法人なのかを一つポイントにしているそうです。「個人より法人でやっている方が事業にかける思いや覚悟を感じる」とおっしゃっていました。
もちろん、金融機関や融資担当の方によって評価するポイントは異なるとは思いますが、こうした声があるのも事実です。
フリーランスが法人化すると、取引先との交渉力も向上する?
ーフリーランスが法人化し社会的信用が上がることで得られるメリットもありますか?
法人化による社会的信用の向上自体が大きなメリットではあります。加えて、フリーランスと法人では契約時の立場や交渉力が変化するんです。
フリーランスの場合、取引先企業との契約時に下請けのような立ち位置になりがちです。法人化することで企業対企業のやりとりができ、対等な関係を構築しやすくなります。
私のクライアント様に、洋服の開発事業を行っているフリーランスの方がいました。法人化によって、これまで言い値で行っていた仕入れを交渉できるようになったり、発注元自体が変わったりと、取引の仕方が大きく変化しました。
法人化はビジネスを広げるタイミングでもありますし、法人化の手続き自体もかなり煩雑で、かつ法人には個人より厳しいルールが課せられます。そうした手続きを踏んでいくなかでクライアント様自身に、ステークホルダーに対する責任感やこれから法人としてやっていく自信のようなものが形成されたのではないかと感じました。
その方は今お話した目に見えないものも含めて交渉力が付き、クラウドファンディングにも挑戦するなど、積極的に事業を広げる取り組みをしています。
所得の多いフリーランスほど、法人化した方が有利になる
ーある程度所得があるフリーランスが法人化するとメリットが大きいとも聞きます。
フリーランス個人が払う所得税は、課税所得が上がる分だけ税率が上がる累進課税です。それに対して法人税は定率ですから、一般的に所得が多いフリーランスが法人化すると節税面でのメリットが大きいと言われています。
法人化すると自分の報酬を「給与」として経費にできるという点も、個人と法人の大きな違いでしょう。
また、フリーランスは国民年金・国民健康保険を自分で払っていますが、法人化すると厚生年金・社会保険に切り替えることになります。ご存じの方も多いと思いますが、厚生年金や社会保険の方が国民年金・国民健康保険より保障が手厚くできています。
フリーランスが法人化するデメリットはあるのか?
ーここまで伺っていると、法人化にはメリットがとても多くあるように思うのですが、デメリットはあるのでしょうか?
一番は手続きの煩雑さでしょう。例えば複式簿記が法人での経営には必須ですが、個人は選択可能です。株式会社を設立する場合、定款を作成しなければなりません。また、定時株主総会や臨時株主総会を開く必要があります。それによって招集通知・議事録記載などの事務も発生します。
また、株式会社は取締役を置くよう定められているので、任期満了に伴う再任や、必要に応じて任期途中の選解任の手続きもします。
これ以外にも法人に義務化されている手続きがあり、それらを行わなければ社会的信用を失う恐れもありますね。ですから、フリーランスの方が圧倒的に手続きは楽なんですよ。
支出が増えることもデメリットと言えます。先ほど節税対策として一定所得を超えれば法人を超えた方が良いとお話しましたが、そもそも法人化すると支出は確実にアップします。
例えば、法人住民税のうち「均等割」と呼ばれる税は、赤字の場合であっても納めなければいけません。東京都の場合、2021年現在、資本金1千万円以下、従業者数50人以下で7万円です。
事業内容が変わった、取締役を追加すると言った変更事項があれば、都度定款の変更もしなくてはいけません。定款の変更にも多くの手続きと、変更費用がかかります。
こうした手続きや財務、経理を自分で一人で担当するのは大変なので、法人化したら税理士にお願いするのが一般的です。その費用も必要になりますね。
また、デメリットという観点ではないかもしれないのですが、自分の給与をいくらにすべきか難しいとおっしゃる方は多いです。
フリーランスで活動していたときは、売上から費用や税金を差し引いた額≒給料になっています。法人化すると、事業の年間収益を事前に予測した上で役員報酬として事前に設定しなくてはならず、難しく感じるようです。
フリーランスが法人化するタイミングはここだ!
ー自分は法人化すべきかどうか分からないという方も多いです。「法人化すべきタイミングやポイント」はあるのでしょうか?
以下の6点でしょうか。
☑個人所得が600~800万円になったタイミング
☑扶養家族が増えるタイミング
☑ほかの個人事業主と組んでビジネスを起こすタイミング
☑大規模なクライアント・大企業との取引が期待できるタイミング
☑設備や人手が必要なビジネスに乗り出すタイミング
☑会社を成長させようと考えているタイミング
それぞれご紹介していきます。
所得の目安はあくまでも目安です。税理士さんなど節税の専門家の方々は所得600~800万円での法人化をオススメしていることが多いようです。経理の状況や諸条件次第ではもっと高い所得が必要な場合もあるでしょう。
扶養家族が増えるタイミングは、厚生年金や社会保険に加入検討する選択肢として法人化を検討できるということです。また、扶養家族が増えたことでより家族を養うため法人化して事業を拡大させようというメンタル面での効果も考えられます。
ただ、法人化するにあたって重要なのは、所得よりもどんなビジネスをするかです。
大企業と取引をしたい人は、個人では契約してもらえないケースもあるので特に法人化を検討すべきです。大きな設備を活用する、人を雇う、融資を受けたいという時にも社会的信用が高い法人への移行を検討しましょう。
仲間と集まってビジネスする場合も、法人化していれば対外的に組織を作っていることをアピールできます。このように、会社を成長させていこうと思ったタイミングは法人化すべきですし、逆に個人の資産を増やすにはフリーランスの方が向いている場合もあります。
フリーランスの法人化で重要なことは所得よりも自分の価値
ー今お話を伺っていると、所得がいくらになったから法人化するというよりも、自分がどんな事業をしたいのかを重視した方がよさそうですね。
その通りです。まずは、自分の価値を確認すること。どんな思いで独立したのかをまず整理しましょう。そして、これから自分の仕事をどうしていきたいか考えた上で法人化することが重要なんです。
法人成りしたクライアント様を多く見てきた経験から、私はフリーランスから法人成りして成功するケースが大きく2つあると考えています。
①手に職があり、受注を約束されている(すでに顧客がいる)ケース
②長期的に戦略、事業計画を緻密に作っている(しっかり考えられた創業)ケース
この二つのケースのいずれかであれば、仮に現在の所得が600万円に満たなくても法人成りして良いと感じますね。代わりに、ある程度の自己資金は必要です。ビジネスだけに使えるお金が最低100万円以上はないと法人化は難しいでしょう。
逆に言えば、所得がさほど多くなくても綿密な事業計画があるか顧客が複数いれば、自己資金100万円でも法人として融資を受けられたり、経営できる可能性がありますよ。
フリーランスが法人化するためのステップとは
ーでは、フリーランスが法人化するための具体的なステップ(手続き)を教えてください。
上記は、株式会社として法人化するときの手続きです。
ステップ1の「会社の事業イメージの検討」がなぜ必要なのかというと、定款のもとになるからです。定款に書いた事業内容しか行うことはできないので、現在だけでなく将来に渡ってどんな事業を行うのか考えます。定款の作成は自分でも行うことができますが、手続きが煩雑なので行政書士等と連携して作成される方も多いです。
定款と並行して印鑑(社印・銀行印)を作り、定款が完成したら公証人役場で認証を受けます。発行した株式分の出資金を個人口座に払い込み、登記申請をして晴れて法人になれます。
株式会社だけではなく、他の会社形態もあります。例えば合同会社は株式会社よりも手続きは煩雑ではないと言われています。
しかし、社会的な信用力は株式会社が一番です。あるクライアント様は合同会社を設立したものの、数年後に事業の拡大と大企業との取引を控えたタイミングで株式会社に変更していました。自分の状況にあわせて形態をジャッジできると良いですね。
ー今回は非常に勉強になりました!最後に、法人経営で大切なことは何だと思いますか?
私自身が法人経営で大切にすべきだと感じている価値感は、中小企業診断士に転身するために通っていたビジネススクールの経験が大きいです。マーケティングの先生に教えて頂いた3点を今も大切にしています。
一つは「ゴーイング・コンサーン」。企業経営の究極の目的は続けることだ、という意味です。
企業活動を続けなければ社会貢献も雇用の創出も、生活もできないんです。企業経営は賭け事とは違いますし、社会的な責任もあるので途中で簡単にやめられません。
社会に対する責任も重くなるのが法人化です。責任の重さは、やりがいや周囲からの期待の裏返しでもあります。
二つ目は「企業は経営者の器以上に大きくならない」です。
これは多くの経営者が感じている重い命題ではないでしょうか。一方で、経営者自身も成長するための機会と捉え、常に学び成長していければ良いですね。
最後が「Alone we can do so little; together we can do so much.」
私も実際に企業経営をしてみて実感していますが、一人でできることは限られています。仲間と一緒なら自分だけではできないような価値提供ができます。自分の思いや価値観を明示しフィードバックをもらい、仲間と良い部分を引き出していけばきっと法人経営は成功します。
売り上げに縛られて、自分がやりたいことや法人化した目的を忘れてしまうのは悲しいですね。
まずは自分の事業の目的を忘れないこと。それを正しく伝えれば売り上げUPが結果としてついてくると私は信じています。
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この記事を書いた人
- 渡部 梓
大学卒業後アパレルメーカーで販売、ディストリビューター(在庫管理、換金計画策定等)、店舗支援を担当する。結婚退職後、転居し地方公務員へ。個人住民税課税業務に従事。第一子育休中に再転居により公務員を辞し、無職での保活と子連れの再就職活動を経験する。その後アパレルメーカーでのディストリビューター業務の傍らCARRY ME経由でライティング活動を開始。現在は某企業の社内広報業務を行いながらCARRY MEにてライティング関係の業務委託案件を請け負うパラレルキャリア実践者。プライベートでは二児の母。