ITベンチャー企業は要注意!法律違反とならないためのHRTech活用
最近話題のHR Techとは?
昨今HR Techが話題となっています。HR Techとは”HR(Human Resources)”と”Technology”を組み合わせた造語で、AI、クラウド、ビッグデータなどの最先端のIT関連技術の活用によって人材育成や採用活動、人事評価などの人事領域の業務を行う手法を意味します。
これらのHR Techサービスを利用することにより、人事業務の「戦略化」と「効率化」に役立てることができるため、HR Tech市場は急成長を遂げており注目が集まっています。
主なHRTechとその利用の労働法上の注意点
①チャット形式のクラウド会議サービス
現在、チャット形式でWeb会議ができるクラウドソフトが多く利用されています。以前はテレビ会議など高額の費用をかけて遠隔地との会議を実現するような企業が多くみられましたが、現在ではこうしたチャット形式にてグループで業務連絡や会議などを行う企業がベンチャー企業などを中心に多くなっています。
こうしたクラウド会議サービスを利用する企業で注意したいことは、業務連絡や会議を就業時間外に行う場合です。裁判判例上、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に判断できる時間」とされています。例えば、就業時間外にグループ会議を設定しその参加を強制する場合であれば当然に労働時間となります。
一方で就業時間外、例えば休日であっても簡単な業務連絡をこうしたチャット形式で上司が部下に送るということは良くあるケースかと思います。この場合どうなるのでしょうか。
この場合、返信を義務付けたり、スマートフォンをONにしておくように指示している場合には労働時間とみなされる可能性が高くなります。
実際に裁判になった場合には、その業務連絡の内容や頻度等の実態を総合的に判断して労働時間かそうでないかが判断されることになりますが、「返信は休日や労働時間以外には不要」とあらかじめ周知しておけば、業務連絡があったからといってそれが直ちに労働時間とみなされるリスクは少ないと言えます。
②ビジネスSNS
最近、ビジネスに特化したSNSを利用した採用活動を行っている企業が多くみられます。
シンプルなビジネス上の交流サイトに加え、旧来の「求人情報をインターネットに掲載し、求職している人と、人材を募集している会社をあっせんするサービス」とはまた別の、企業情報を載せたサイトやアプリケーションがあります。
「求職者と求人企業をあっせんするサービス」は職業安定法上の職業紹介事業者にあたるわけですが、職業紹介ではなく、詳細な労働条件を載せずに自社に興味を持ってくれる求職者を惹きつけることによってまずは会社への興味を持ってもらおうとするようなプラットフォームサービスが出てきています。
このようなビジネスSNSを利用した採用を行う場合であっても、労働者となる者を募集しようとする場合には職業安定法上、下記の労働条件について書面の交付(求職者が希望する場合は電子メールも可)により明示する必要があります。
①業務内容
②契約期間
③就業場所
④就業時間
⑤休憩時間
⑥休日
⑦加入保険
⑧試用期間
⑨時間外労働(裁量労働制を採用している場合はその記載)
⑩賃金月給(固定残業代を採用する場合はその記載)
⑪募集者の氏名または名称、派遣労働者として雇用する場合はその旨
更に、平成30年1月1日に職業安定法が改正され、当初明示した労働条件が変更される場合は、変更内容について明示する義務が新設されたことにより一層労働者の募集の際には厳しい規制が課されることになりました。
ビジネスSNSを利用して、まずは会社の雰囲気を見に来たという求職者について、ビジネスSNS上で詳細な労働条件を提示していない場合には、実際に面接という過程に入った場合には上記の条件をメールで送付する等の対応が必要です。
③クラウド勤怠管理
クラウドの勤怠管理システムもHRTechで活用が進んでいる分野です。少し前は、勤怠管理システムと言えばタイムカードという時代もありましたが、昨今PC上やクラウド上での勤怠管理が主流になっています。
最近のクラウド勤怠管理システムは給与計算と連動されているものもあり、従業員がWeb上で打刻した時間を基に労働時間等を計算し給与計算まで可能にしてくれるような便利なものも多くあります。
また、いわゆるパッケージソフトではなくクラウドソフトの場合には営業社員など外回りが多い社員が、会社に戻ってPC上で打刻しなくとも、外出先で退勤の打刻などを行うことが可能となるため効率的という面もあるようです。
このようなクラウド勤怠管理サービスを利用する際に気を付けたいことは、労働時間の適正把握です。クラウド勤怠管理といえば、ITを駆使して正確な労働時間集計が可能となるというイメージをお持ちの人事担当者も多いのですが、確かにそういった正確性の一面がある一方で、基本は従業員の打刻がベースとなっているわけです。その打刻は労働時間の実態が適正に反映されるよう行われなければなりません。
たとえば、こうしたクラウド勤怠管理サービスは、労働時間が36協定の限度時間を超えそうな社員に対しては、時間外労働を抑えるよう注意喚起のポップアップなどが出てくる機能を備えたものもあり、「時間外労働をしないと業務が終わらないが、もう今月は残業は認められな」といった社員が、勤怠管理システムで退社の打刻をしてから残業するといったことが起きる可能性もあります。
また割増時間外手当を受給したい社員については、就業時間後机に座り続け業務に関係のないネットサーフィン等で時間をつぶした後に、退勤の打刻をすることも考えられます。
こうした不正確な打刻の問題は、実際にはクラウド勤怠管理システムの登場の前のタイムカードの時代からの課題です。しかし、タイムカードの打刻機であれば目に見えて周囲にもわかりやすいですが、クラウド勤怠になるとよりその打刻はプライベートなものとなり個人にしか見えにくくなるわけです。
電通の過労死事件など、企業の長時間労働などの問題が叫ばれる中、平成29年1月20日に厚生労働省から「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」というものが出されました。
本ガイドラインの中に、
自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
(引用元:「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)
というものがあります。
つまり、クラウド勤怠管理ソフトを利用している場合で、社員が申告した(=打刻した)時間によって把握された労働時間が、当該社員のPCの起動のON OFFの時間などと乖離している場合には、労働時間を補正しなければならないということです。
企業としては、打刻をした後はPCを速やかにシャットダウンし退勤することを徹底させる必要があります。
クラウド勤怠管理を導入したから万々歳というわけではなく、その打刻時間が適正かどうかの管理も企業には求められていると言えます。
ツールを上手に使いながら、安心した労務管理を
いかがでしたでしょうか。自社で上記に挙げたようなサービスを利用しているという会社も多いと思います。リスクを恐れてこれらのツールを使わないということはもったいないことですが、できる限りリスクを把握し管理することで安心した労務管理の実現が可能です。上手に利用して人事業務の効率化をはかっていきましょう。
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この記事を書いた人
- 寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売。 2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」発売。第1章労務パートを執筆。 2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
寺島戦略社会保険労務士事務所HP: https://www.terashima-sr.com/