「障害者雇用水増し」ニュースで話題 障害者雇用制度ってなに?
この8月、複数の中央省庁や地方自治体で障害者の雇用率を水増ししているとして大きな問題となりました。
「『障害者の雇用率の水増し』という言葉はニュースでよく耳にしているけど、いまいち障害者雇用の制度のことはよくわからない・・・」という方は意外と多いのではないでしょうか。
障害者雇用については、多様な働き方、ダイバーシティ、人手不足、一億総活躍など昨今話題のキーワードに関連し欠かすことができない制度です。
今回は、この障害者雇用についてピックアップし、障害者雇用制度の基本を解説していきます!いまいち障害者雇用制度がよくわからなかった・・・という方必見の内容です。
1.障害者雇用の概要
障害者雇用について企業の義務などが規定されているのが「障害者雇用促進法」という法律です。
この法律は、障害者の雇用促進をはかるため、事業主の義務や障害者本人への公的支援措置などを規定する法律で、採用時等に障害者が差別により不当に機会を奪われないようにすることや、賃金・教育訓練・福利厚生等について障害者であることを理由に不当な差別的取扱いをすることを禁じているほか、従業員の障害の特性に配慮した、施設整備等の必要な措置を講じなければならないことなどが規定されています。
つまりわかりやすく言えば、この法律には「障害者だから採用しない」「障害者だから賃金は低くする」のようなことを禁止するほか、例えば身体障害を持っている従業員が作業のしやすい机や椅子を整備するなどの障害の特性に配慮した施設整備を講じ、働きやすい環境を整備してくださいというようなことが規定されているわけです。
また大きな義務として、企業・国・地方自治体等の従業員規模に応じて一定割合以上の障害者の雇用義務を課しています。これが今回、中央省庁や地方自治体で障害者雇用率の水増しが行われていたことで障害者雇用率違反として大きくピックアップされているわけです。
この障害者雇用率は1976年に法的に義務化され当初は1.5%であったのが、徐々に引き上げられてきています。
2018年4月にも引き上げが行われ、これにより民間企業の障害者法定雇用率は現在2.2%となっています。
2.2%というとややイメージが湧きにくいですが、
例えば従業員が100人の会社は、100人×2.2%=2.2人
の障害者雇用が必要となるわけですが、0.2人というのはあり得ないので、切り捨てて2人の雇用が必要になるということです。
また、言い換えれば従業員が45.5人以上の事業主は障害者を1人以上雇用する義務が発生することになります。
(45.5人というと、「45人ではなくて45.5人?0.5人はどうやってカウントすればいいの?」
という疑問が発生しますが、確かに物理的には0.5人の従業員はありえないのですが、障害者雇用において雇用労働者数や実雇用の障害者数を算定する場合には、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の方は短時間労働者を0.5人としてカウントするため、このような0.5人単位の話がでてくることになります。)
このように特段何千人も従業員がいるような大企業だけでなく従業員人数が50人程度の小さな企業にも障害者の雇用というのは義務付けられおり、いまや企業にとっては障害者雇用は避けられないトピックです。
2. 障害者雇用率を守らない場合はどうなるの?
実は、意外かもしれませんが障害者雇用率を守らない企業に50万円の罰金・懲役6か月!などのような罰則はありません。
一方、障害者雇用人数が法定雇用率を満たしていない場合、障害者雇用納付金というものの納付が必要になります。
障害者雇用納付金とは、法定雇用率で計算される人数に対し、それに満たない場合、1名の不足に対して月額50,000円を納付しなければならないという制度です。
常時雇用する従業員数が200人を超えている企業が障害者雇用納付金の納付義務の対象となっていたのですが、2015年4月1日からは、常時雇用する従業員数が100人を超える企業が対象となっています。
今回の中央省庁や地方自治体の障害者雇用水増し問題では約3500人分が水増しされていたとのことですから、民間企業なら1億7500万円の納付金が必要となる計算になります。このような数字をあらためて見ると、その水増しの規模がいかに大きいかが良くわかります。
また従業員45.5人以上の事業主は、毎年6月1日現在の障害者の雇用に関する状況(障害者雇用状況報告)をハローワークに報告する義務があります。これにより障害者雇用の状況が把握されるため、障害者雇用納付金を適切に納付していたとしてもその法定雇用率が大幅に低い場合には行政指導がなされる恐れがあります。
そして、この行政指導に従わない場合には、企業名の公表などがなされる可能性があります。
企業名公表などされたら企業の信用が失墜してしまいますので、もし行政指導があった場合には真摯に対応しなければなりません。
このように、法令で障害者雇用については厳しく規定されており企業にとっては、各社障害者の方をどう受け入れ活躍してもらうかということを日々検討しなければなりません。
なお参考までに、法定雇用率を上回り障害者雇用に積極的な企業(かつ従業員が100名を超える企業)には、その超えて雇用している障害者数に応じて1人につき月額27,000円の障害者雇用調整金という報奨金が支給される制度も用意されています。
そのほかにも、障害者を雇い入れた場合、各種助成金制度も用意されています。
例えば、特定求職者雇用開発助成金 障害者初回雇用コースという助成金がありますが、これは障害者雇用の経験のない中小企業が障害者を初めて雇用し、一定要件を満たした場合には1企業あたり120万円が支給されるというものです。
また、障害者の雇入れに必要な事業所の施設・設備等の設置・整備を行う企業に当該施設・設備等の設置等に要した費用に応じて支給されるような助成金もあります。
中小企業にとって、設備投資などは負担が重いというようなこともあるかと思いますがこのような助成金制度をうまく活用するとよいかもしれません。
3.おわりに
障害者雇用については100名を超えると障害者雇用納付金の対象となってくるというお話をしましたが、実はこの障害者雇用納付金の対象がさらに従業員50人以上の企業にも適用拡大されることが現在厚生労働省の検討会で検討されています。
急速な少子高齢化が進む日本において、労働力の確保は急務となっています。現在働き方改革において全員参加型の社会の実現が叫ばれていますがまさに障害者雇用は日本全体で取り組むべき問題になっていると言えます。
法定雇用率という法律上の義務はもちろんですが、昨今上場企業では障害者雇用の現状についてCSR報告書などで自社の現状を記載することが多く、法定雇用率が守られていないと株主や各種ステークホルダーから追及されてしまうという話をよく聞きます。
今回中央省庁や地方自治体等本来、他の模範となるべき組織において障害者雇用の水増しが行われていたことで「国も守れない制度を押し付けるな!」のように憤りを感じている企業もあるかもしれません。
しかし、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが控えています。
オリンピック・パラリンピックを目の前にして、現在大手企業を中心に障害者アスリート雇用が拡大しているというようなポジティブなニュースも目にします。
今回の国の不祥事で障害者雇用がネガティブなイメージでとらえられてしまっていますが、
東京オリンピック・パラリンピック開催国として恥ずかしくないように、日本全体で障害者雇用には積極的に取り組んでいく必要があるように感じます。
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この記事を書いた人
- 寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売。 2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」発売。第1章労務パートを執筆。 2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
寺島戦略社会保険労務士事務所HP: https://www.terashima-sr.com/