元個人事業主の失業保険受給期間延長を社労士が解説!
2022年7月、失業保険の受給期間を延長する特例が新設されました。特例によって、企業を離職して起業したものの休業・廃業した場合に、失業保険を受け取りやすくなりました。特例の詳しい内容や申請手続きについて、社会保険労務士が解説します!
目次
失業保険(いわゆる失業手当)とは?個人事業主ももらえるの?
失業保険(いわゆる失業手当)とは、雇用保険の被保険者が、契約期間の満了、定年や倒産などなんらかの理由で離職し再就職を目指すにあたって、失業中の生活の心配をせず安心して仕事を探せるように支給されるものです。
受給期間は原則として離職した日の翌日から1年間とされており、失業保険の支給残日数があっても1年間を経過してしまうと受けることができません。
ただし、離職後に病気やけが、妊娠・出産・育児等の理由で引き続き30日以上働けなくなったときは、ハローワークに申請することでその働けなくなった日数分、受給期間を延長することができます。
個人事業主も対象?失業保険の受給要件とは
失業保険を受給するには、①就職しようとする意志があり、②就職できる能力あるにもかかわらず③失業の状態にあることが要件とされています。
①就職しようとする意志がある
離職してしばらくは心身を休養させたい、家事に専念したいという場合は、就職しようとする意志があるとはみなされません。ハローワークで求職の申し込みをしなければ受給要件をみたしません。
②就職できる能力がある
就職できる能力とは健康状態や環境をさします。病気やけが、あるいは妊娠・出産・育児のためすぐに就職できない時は、就職できる能力があるとはみなされません。
③失業状態である
本人やハローワークの努力によっても就職できない状態をいいます。次の就職先から内定をもらっているなど既に次の就職先が決まっている場合は失業状態とはみなされません。
自分で開業・起業したり、開業・起業準備をしている人も同様です。
失業保険の受給には、離職の日以前に一定期間雇用保険の被保険者であったことも必要とされます。
雇用保険は雇用される労働者のための制度であるため、雇用されていない個人事業主や業務委託契約で働くフリーランスは、原則として雇用保険の被保険者にはなれず、失業手当は受給できません。
個人事業主は再就職手当をもらうことは可能
もし、失業手当の受給資格があると認定された後、すぐに安定した職業に再就職が決まった場合、失業手当は受給できません。かわりに失業手当の60~70%にあたる額が再就職手当として受給できます。
あるいは、1年を超えて引き続き雇用される見込みはないなど、安定した職業ではないが就職した場合は、失業手当の30%にあたる額が就業手当として受給できます。再就職手当の受給条件には、就職のほか「事業の開始」も含まれるため、個人事業主も受給対象になります。
なお、再就職手当や雇用保険の考え方については下記でも詳しく解説しています。
会社を退職後フリーランスになる場合、失業保険は受給できる?雇用保険に入れるケースとは?
個人事業主の失業保険の受給期間延長特例とは
それでは、個人事業主が休業または廃業して再就職を目指す場合は失業保険を受け取ることができるのでしょうか。2022年7月1日より、失業保険の受給期間に特例が設けられ、休廃業した際の失業保険が受給しやすくなりました。
失業保険の受給期間は離職日の翌日から1年以内とされてきましたが、特例によって従来の受給期間である1年を過ぎた後も、事業を行っている最大3年間は受給期間に算入されません。これにより、離職後から4年以内に休業や廃業した元個人事業主は、失業保険を受け取ることができます。
個人事業主の失業保険の受給期間延長特例を申請するための要件
この特例申請を行うことができる事業は、以下の要件を全てみたす事業である必要があります。
1.事業の実施期間が30日以上であること。
2.「事業を開始した日」「事業に専念し始めた日」「事業の準備に専念し始めた日」のいずれかから起算して30日を経過する日が受給期間の末日以前であること。
3.当該事業について就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと。
4.次のいずれかの場合
①雇用保険適用事業の事業主になること。
②客観的資料(登記事項証明書、開業・起業届の写し、事務所の賃貸借契約の写し、金融機関との金銭消費貸借契約書の写し等)で、事業を開始したこと、事業内容と事業所の実在、事業の準備に専念し始めたことが確認できること。
5.離職日の翌日以後に開始した事業であること。ただし離職日以前に事業を開始していたが、離職日の翌日以後に当該事業に専念する場合を含む。
失業保険の受給期間延長特例の手続き方法
特例申請を行う場合は、事業を開始等した日(事業に専念し始めた日、事業の準備に専念し始めた日)の翌日から2か月以内に、住所を管轄するハローワークに、受給期間延長等申請書に、離職票又は受給資格者証と、事業を開始した事実と開始日を客観的に確認できる書類を添付して申請します。
万が一の廃業・休業には失業保険の受給期間延長特例を活用しよう
従来、離職後に事業を開業・起業した場合は、それまで雇用保険料を納付していても、失業手当を受給することができませんでしたが、この特例により仮に事業を休廃業した場合でも、4年以内なら退職前の被保険者期間に応じ失業手当を受給することが可能となります。
長引くコロナ禍で開業・起業後の社会情勢がどうなっていくか見通しが難しいなか、失業手当を受給しながら再就職活動を行う可能性ができたことは、離職後の開業・起業に対する後押しになります。まずは、開業・起業後に特例申請の手続きをしておくことをおすすめします!
この記事を書いた人
- 寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売。 2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」発売。第1章労務パートを執筆。 2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
寺島戦略社会保険労務士事務所HP: https://www.terashima-sr.com/