ワーケーションとは?ワーケーション導入のメリットと労務管理を解説!
ワーケーションとは?
2020年7月27日に菅義偉官房長官が「ワーケーションなどの普及に取り組んでいく」という発言をしたことが話題になりました。
ワーケーションとは、仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた造語で、観光地やリゾート地といった普段の勤務場所から離れたところで仕事(主にテレワーク)を行う新たな働き方を指しています。
今回は現在話題になっているこの、「ワーケーションと労務管理」について解説していきたいと思います。
ワーケーションがもたらす企業のメリットとは?
ワーケーションについては観光業界、地方自治体、企業、企業で働く従業員のそれぞれの立場でそれぞれメリットとデメリットがあります。観光業界からすれば、観光ニーズが掘り起こせますし、地方自治体からしても人が集まれば経済が潤うなどのメリットがあります。
では企業にとってはどうでしょうか。企業がワーケーションを導入するメリットとしては、次のようなものがあります。
①優秀な社員の確保・採用力強化
経営者であれば、自律的に働き成果を出せる優秀な人材を確保したいと考えていることと思います。
ただこうした自律的に働ける優秀な人材については、業務プロセスを管理するよりも、成果で評価してほしいという希望を持つ方も多く「9時~18時までは必ずオフィスにいる」といった固定的な働き方がマッチしないケースが多くあります。
そのため、自律的に働ける優秀な人材ほど柔軟な働き方ができる企業を選択する傾向にあります。そのため、ワーケーションを導入することでこうした人材を惹きつけ、採用力を高める効果があると考えられます。
②年次有給休暇の取得促進
2019年4月から年次有給休暇の5日取得が義務化されているところですが、ワーケーションによって通常の勤務日に年次有給休暇取得をくっつけることで、従業員も余暇を充実して過ごせることになり、年次有給休暇の取得促進につながると考えられています。
年次有給休暇の取得が促されれば年間の労働時間の削減にも効果がありますし、こうした働き方改革の文脈でもメリットがあります。
③従業員のリフレッシュ効果
これは従業員側のメリットにもつながりますが、通常の勤務地を離れ、家族等と観光地・リゾート地で業務を行うことにより、仕事が終われば温泉にはいったり、観光地を巡ったりできることになります。
これによりワークライフバランスが確保できることになります。
また、従業員のリフレッシュにつながり、新たな気持ちで業務に取り組めるでしょう。これにより新たなビジネスアイディアや発想が生み出される可能性もあります。
ワーケーションの労務管理上の課題とは?
一方で企業がワーケーションを導入するに当たっては次のような労務管理上の論点が存在します。
労働時間管理
まず、企業でどういったワーケーションを設計するかにもよりますが、どのように労働時間管理を行うのか?という点は検討しなければなりません。
通常の固定的な労働時間制でもワーケーション自体行う事は可能と考えますが、通常の固定的な労働時間制度を使う場合、従業員が所定労働時間中の中抜けがしにくいでしょう。つまり、始業9:00~終業18:00までの間でどこかで観光に行く場合、その時間は中抜け時間として労働時間になりませんので、終業時間を繰り下げることなどが必要となります。
結局従業員からすれば一日の労働時間を満たすためには終業時刻を繰り下げる必要があり、所定労働日には柔軟に観光ができないことになります。
この問題を解決するためにはフレックスタイム制や裁量労働制といった柔軟な労働時間制を導入することになり、就業規則の改定や労使協定の策定・届出などが必要となります。
こうした導入のコストもワーケーションを阻む壁と考えられます。
勤怠管理
今般のコロナ禍でクラウドで打刻可能な勤怠ソフトをいよいよ導入したという企業も多いかと思いますが、ワーケーション時でも勤怠管理は欠かせません。(たとえ管理監督者であっても、裁量労働制適用者であっても勤怠管理は必要です。)
また、在宅勤務でも同様ではあるのですが、ワーケーションで重要な論点としては、「仕事をしている時間」「仕事をしていない時間」の区別をつけておく必要があります。
ここが曖昧になると会社としても「ワーケーション中に社員が働いているのか働いていないのかがわからない」という社員への不信感につながってしまいます。
また後述しますが、労災保険については業務との関係性で労災認定がなされますので、例えば観光中に怪我をした場合には労災の適用にはなりません。一方ワーケーション中とはいえ、仕事中になんらかの怪我をした場合には労災認定される余地はあります。
そのため、通常のオフィス勤務とは異なり、就労しているのかしないのか外形的に見えにくい状況の場合、少なくとも勤怠管理で、働いている時間、働いていない時間が区別できている必要があります。
そのためメールやチャットツール等で、社員がワーケーション中に観光などで不在とする場合には「●時~●時まで不在にする」といった連絡を適宜、確実に行うルールにするなどの工夫が求められます。
社員側にとっても、働いていないのでは?というあらぬ疑いがかけられないよう、こうした連絡・報告はワーケーション中にはとりわけ重要になると考えます。
労災
ワーケーション時の留意点として、通常のリモートワークでも同様ではあるのですがやはり労災の問題は避けて通れません。
ただでさえリモートワーク時の労災は、「私的行為中であったのでは」と通常勤務時よりは認められにくいと考えられます。
これがワーケーションになる場合、通常業務を遂行する場所でもないことから、業務起因性・業務遂行性がより認められにくいことが予想されます。
この点、今後政府がワーケーションを推進していくのであれば厚生労働省より指針などが示される可能性もあります。
しかし現時点では労災認定について、通常よりも認められにくいリスクを企業としても留意しておく必要がありますし、ワーケーションを行う前には従業員にこうしたリスクを説明しておくなどの対応が求められると考えています。
筆者の顧問先では、「就労場所選択の同意書」といったものを作り、こうした労災リスクや、ワーケーション時に守っていただきたいルールなどをまとめ、従業員側の理解・同意をいただきながら進めている企業もあります。
ワーケーションは優秀な人材を確保したい企業にとっては魅力ある制度!
筆者個人的にはワーケーションという仕組みは自律的に働ける優秀な人材を惹きつける仕組みとして魅力的と考えているところです。
今般のコロナ禍で在宅勤務を導入した企業も多く、働き方の多様化は少なからず進んだと考えており、これまでよりも今回ご紹介した柔軟な働き方ができるのでは?という土壌が醸成された企業もあると考えます。
ただ、述べたような労務管理論点のほか、セキュリティの論点などもあり、企業にとっては制度・ルールなどを決めて導入することが必要と考えています。
導入の際には専門家に相談しながら進めると安心です。
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この記事を書いた人
- 寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売。 2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」発売。第1章労務パートを執筆。 2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
寺島戦略社会保険労務士事務所HP: https://www.terashima-sr.com/