MBAでは学べない“リーン・スタートアップ”の基本の「き」後編 〜「Jobs To Be Done」とビジネスモデルキャンバス〜
前回は1000社に3社の確率と言われるスタートアップの成功率を高めるメソッド「リーン・スタートアップ」の基礎のうち、最も重要な過程のひとつ「仮説検証」の重要性と方法についてお話しました。
今回は、ビジネスモデルの骨子となる「顧客のニーズ」を説明する「Jobs To Be Done」と、ビジネスモデルの構成要素を把握するビジネスモデルキャンバスについてご説明します。
顧客はドリルではなく穴が欲しい
「顧客のニーズ」という言葉をよく耳にしますが、本当の意味でこの言葉を理解していない人も多いです。それでは、ニーズとは何でしょうか。
非常に有名な言葉があります。
「顧客は1/4インチのドリルを求めているのではない。1/4インチの穴が欲しいのだ」(ハーバードビジネススクール教授 セオドア・レビット)
具体的な商品・サービスが目の前にあると、ついつい視点が低くなりドリルを作ろうとしてしまいます。その場合、競合はドリル販売会社しか入ってきません。
でも実は顧客は穴が欲しいのです。ドリルはツールに過ぎません。
そう考えるとドリル以外の画期的な穴を空ける道具や、隣人が穴を空けにやってくるようなサービスまで発想が広がります。競合も、かなり違う視点で捉えられるようになりますね。
この本質的なニーズは「Jobs To Be Done」と呼ばれています。直訳すると、「成し遂げるべき仕事」。切実なニーズを持つ顧客にとって、その問題を解決することは、人生の中での「Job(仕事)」と捉えられます。
「Jobs To Be Done」を適切に捉えることで、生み出すサービスが変わってきます。このエッセンスはリーン・スタートアップの中で非常に重要です。
ジョブ理論とは
「イノベーションのジレンマ」で有名なクリステンセン教授が発表した最新書籍「ジョブ理論」はまさに、この「Jobs To Be Done」の考え方に通じています。この理論は、どうしても達成したいことを「ジョブ」と捉え、そのジョブを叶えるサービス・商品を作らないと顧客に逃げられてしまうというものです。
ジョブ理論の書籍には、例としてミルクシェイクが登場します。
とあるお店のミルクシェイクの販売が伸び悩んでいた時に、まず彼らがやったのは旧来のマーケティング方法でした。アンケート調査を行い、分析結果をもとにフレーバーのバリエーションを増やしたのです。
しかし、ほとんど売上は上がりませんでした。
そこでクリステンセン教授のもとに、どうにか売上を伸ばせないかと依頼が来ました。彼は顧客をじっくり観察することで、その特徴を把握することから開始。平日の朝はほとんどの顧客がシェイクを買ってすぐに出勤の車に持っていくことが分かりました。その上で彼らに意見を聞くと、「長い車の出勤では手持ち無沙汰で飽きてしまう」「手を汚さずお腹を満たせるものがいい」という理由でシェイクを買っていることが分かりました。
彼らが求めているものはシェイクではなく、彼らの移動を飽きさせずに腹を満たす存在なのです。それならば、シェイクを改善する時に「毎日飲んでも飽きがこない、ゆっくり飲める」という改善策が考えられます。
また、休日の昼間の顧客は、子連れのお父さんが多いことにも気がつきました。彼らは「平日家で厳しくしつけをしている子供に、休日ぐらいは甘いものを買って甘やかしてあげよう」という気持ちでシェイクを買っていました。この層もまた、シェイクが欲しいのではなく、親として子供にたまには良い顔をすることが目的です。それならば、子供が好きな味で、飲み切りやすいミニサイズのシェイクをメニューにするなどの改善策が考えられます。
シェイクというツールではなく、彼らが何故シェイクを買っている(理論では採用すると表現しています)のかに着目するとビジネスモデルも、改善策も適切なアイディアが生まれるのです。
ビジネスモデルキャンバスを描こう!
ニーズを捉える上で重要な「Jobs To Be Done」を説明したところで、ビジネスモデル全体を把握できる「ビジネスモデルキャンバス(以下、BMC)」をご説明しましょう。
これは、ビジネスアイディアの要素がシンプルに網羅されているため、ビジネスを考える時や、見直す時に活用されます。
ビジネスモデルの要素は下記の9つです。これらをシートにして埋めたり、整合性を取ったりして埋めてみましょう。
埋める際に気をつけなくてはならないのは「トートロジー」にならないようにすることです。
「トートロジー」とは同じことを繰り返すこと。例えば、VPに「穴を簡単に開けられる」、CSに「穴を簡単に開けたい人」と書いてしまっては意味がありません。
結果にコミットで有名な「ライザップ」であれば、おそらくこのような形ではないでしょうか。(企業に勤めているわけではないので、想像です。)
ビジネスモデルキャンバスの6つのコツ
BMCをうまく使いこなすには6つのコツがあります。これを守れば初心者でも、よりBMCが作りやすくなります。
1, CS、VP、R$を最初に固める
誰に、どのような価値を提供するか。この重要な2大要素はもちろん重要です。さらに、ビジネスとして成り立たせるために、どうやって儲けるかを最初に決めましょう。
2, できるだけ具体的にイメージして書く
5W1Hを具体的にイメージして書きましょう。例えばCSが「50歳、男性、子持ち」では抽象的すぎて、その人のニーズがイメージできません。「50歳、自営業、家にいることが多い、幼稚園の子供がいて午後は面倒を見ることが多い」とすればニーズがクリアになります。
3, 各要素が結びつき合っていて整合性が取れている
CSとVPは繋がっていないとダメな事は当然ですし、コスト構造(C$)や取引先(KP)も現実的でなければなりません。
4, 顧客が複数いる場合は、顧客ごとに書く
顧客は1つのグループとは限りません。例えば、「Uber」にとっては乗る人も、乗らせる人も顧客です。「食べログ」にとっては、レシピをアップする人も、閲覧する人も顧客です。このように複数の顧客がいる場合は、それぞれ項目ごとに要素を考えてください。
5, 網羅的に書くのではなく大事なことにフォーカスする
書くことに具体性は必要ですが、それは細部を書くという意味ではありません。例えば、「C$」に雑費や交通費まで書いていたらキリがありません。主にかかるコストについて記載すれば良いのです。
6, C$ < R$
当然ですが、この構造が崩れてしまっては赤字事業です。もし赤字のイメージしかないなら、要素のどこかを見直しましょう。
プロダクト・マーケット・フィットに向けて
前編でもお話した通り、スタートアップは最初からスムーズにいくことは、ほぼありません。基本は「Fail cheap, Fail fast, Fail smart」です。
BMCも同じで、一度書いて正解ということは、ほとんどありません。書いたものをベースに仮説検証をして、違うところを修正する「ピボット」の繰り返しで適切なビジネスモデルに方向修正をしていきます。
「ピボット」で重要なのは、複数の要素を一気に変えてしまわないこと。それでは、仮説検証になりませんし、原型をとどめなくなってしまいます。VP、CSを軸として基本1要素ずつ変えて検証し直してください。
その繰り返しこそが、生み出す商品・サービスが顧客のニーズにガチっとはまる「プロダクト・マーケット・フィット」につながる道です。
ジョブ理論、BMCに関心を持った方は是非、人気の書籍も見てみてください。
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この記事を書いた人
- 丸山 夏名美
- PR、マーケティング業界でコミュニケーションの仕事をする中、「人を理解する」「人に伝える」ことの魅力を知る。 ライターとして日経BP社「IT pro」のスマートフォン特集、PR代理店メディアのトレンドビジネス特集、街の魅力を伝えるcowcamo magazine「街の先輩に聞く!」など社会トレンド、ビジネス、マーケティングをテーマに連載・執筆を行う。趣味の写真を楽しみながら、物撮りや取材写真の対応ができるように学習中。