【書評】生産性ーマッキンゼーが組織と人材に求め続けるものー
著書プロフィール
キャリア形成コンサルタント 大学卒業後、日興證券引受本部を経て、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスにてMBAを取得。 1993年から2010年末までマッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンにて、コンサルタントおよび、人材育成、採用マネージャーを務める。2011年より独立。
要約
①組織と人材に最も必要なものは「生産性」です。仕事は量ではなく質をコントロールすることが必要。
②生産性があがることとは成長することです。
③生産性向上のためにどうしていくべきか、考え方や具体的手法を紹介している一冊です。
レビュー
生産性を高める有効は方法はあるのでしょうか?
自己流で効率化をすすめていても、勤務時間を減らせず、行き詰まりを感じていませんか?あるいは、働き続け、結果を出すことに苦労し疲弊していませんか?そんなときは、「生産性」を忘れてはいないか、一度立ち止まって考えてみましょう。この本を読めば、生産性をあげる具体的なヒントを得ることができます。仕事に悩む人、もっと成長し続けたい人、生産性をあげることができれば、あなたの抱える問題を解決することができます。新人、管理職、会社のトップ、どんな立場のビジネスパーソンにもおすすめの本です。
日本のビジネスパーソン・企業に足りないのは「生産性」
日本のビジネスパーソンや企業は、かねてから、「生産性に欠けている」と諸外国からも指摘され続けてきました。 2015年の日本のGDP(国内総生産)は世界第3位となっており、一見「生産性」も高いように思えます。しかし、”1人当たり労働生産性”を表すOECD加盟諸国35カ国の「就業者数(または就業者数×労働時間)1人あたりのGDP」で見ると、日本の順位は22位、主要7カ国では最下位になっています。政府も「働き方改革」と銘打ち、労働時間の短縮を目標にすえたり、プレミアムフライデーを打ち出して、早く退社を促すなどの施策を行ってきましたが、目に見える解決には至っていないことは明らかです。
この本の著者、伊賀泰代氏はマッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンにてコンサルタントを長らく経験し、現在も人材育成や組織運営に関わるコンサルティングを行っている方です。 伊賀氏が本書で記すには、日本の労働においての問題は、「生産性」への意識が欠如していることと述べています。これまでの日本での生産性への一般的な認識といえば、工場の生産ラインなどで、コストを抑えて生産数をあげるための方法論をさすことがほとんどでした。
一般的オフィス、ホワイトカラーと見なされる職場などでは、生産性が軽視されていることが見受けられます。 企画部門や開発部門などのように、自由な発想が必要で、 クリエイティブな業務をしていると自負している部門においては、生産性をあげて能率をあげる働き方では、 かえって、斬新なアイデアや商品は生み出せないと考え、生産性の重要性を理解してこなかった面もあります。 しかし、一見生産性とは無関係な職場であっても、生産性を意識してあげていくことによって、 時間に余裕を産むことができ、結果クリエイティブな仕事を開発できるようにもなるのです。 どのような環境でも、生産性への意識が仕事の問題解決の糸口になり得るのです。
生産性向上のための四つのアプローチとは
一言で生産性といっても、具体的にイメージがわかない方もいることでしょう。 伊賀氏は、“生産性は「成果物」と、その成果物を獲得するために「投入した資源量」の比率として計算される”としています。 少ないインプットや投資で、大きなアウトプットや利益を得られれば、生産性が高いということができるというわけです。 著者は、生産性向上のためには4つのアプローチが効果的としるしています。
アプローチ1 改善による投入資源の削減
従来通りだった作業手順を変更したり、定期的に業務の仕分けを行って、無駄な作業を排除する。ほか、ITの活用などを導入し、効率化をはかる。
アプローチ 2 革新による投入資源の削減
ロボット技術など、˚最新技術の導入や、業務プロセスを再構築するなどしてイノベーションをはかる。
アプローチ 3 改善による付加価値額の増加
これまであったものを改善して(改善は、機能の省略することでデザイン性を向上させるなどでもよい。かならずしも追加でなくてもよい)顧客に評価される価値を創造して追加する、付加価値の高い製品作りなどをベテランから若手に研修で伝授し、高い技術力を幅広く備える。
アプローチ 4 革新による付加価値額の増加
これまで存在しなかった、技術的なブレークスルーをそなえた、新素材の開発、発見などにより、付加価値額の向上をめざす 生産性をあげるためには「改善(インプルーブメント)と革新(イノベーション)」の観点が必要であると伊賀氏は述べています。 技術的革新的イノベーションを誰もがめざすのは、難しい面がありますが、あるものを改善しよりよいものにしていくインプルーブメントは、 どんな職場でも、人でもきっと取り入れることができることでしょう。 もはや生産性を意識しないですむ職場はないといっても過言ではありません。今や、生産性をあげることは、 すなわち仕事の効率をあげ、さらに自分の人生への満足度をあげるためにも必要不可欠なことなのです。
成長とは生産性があがること
日々ルーティンワークに忙殺されたりなどし続けていると、ふと、自分自身の成長を感じられなくなるときがあるかもしれません。 しかしこの本では、成長とは生産性があがることであると記されています。どんな事柄にも生産性があげられる可能性があることを忘れてはなりません。 それを見逃さないようにし、生産性をあげて、成長を続けていきましょう。このスローガンは、仕事にやりがいを見いだせなくなってしまったような、 ベテランのモチベーションアップの一助にもなることでしょう。
組織は定期的に仕事の棚卸しを行い、生産性の低い仕事を切り捨てていくことが必要だ
閑散期などに、仕事の棚卸し、見直しを行い、不要な仕事をいつまでも続けていないか、 もっと時間をかけずに行えるようにならないかなど照らし合わせていくことは、会社全体の生産性アップにきわめて効果的です。 他の部門もふくめ、仕事の洗い出しを行うことで部門間の連携もよくなります。
ライター自身の経験でも、不要な仕事の変化についての経験を思い出します。新入社員のときは、専門商社におり、女性は一般職と総合職にわかれていました。 配属の一般職はお茶くみや電話対応が主の業務でした。顧客からの電話をとるのが3コールまでと上司に指導されていたので、 同期同士でいかに電話を早くとるか、競っていた時期も有りました。 新人のときはそれでよかったのですが、転職をへて、外資系企業のセールスリーダーに配属になったとき、 ほかにすべきことがあるのに、前職の習慣から、電話がずっとなりっぱなしになるのが気になって、 エンドユーザーからの問い合わせの電話をとってしまい、エンドユーザー担当がすべき仕事を自分が行い、 本当に自分がしなくてはならない仕事をする時間を減らしてしまったことがあります。 自分が行うべき仕事も見極め、切り離すべき仕事は、切り離していかなくては、真の生産性は追求できません。 習慣から、他の人がすべき仕事を行って貴重な時間を失っていないか、しっかりと意識し、吟味を繰り返しましょう。
仕事を「ブラックボックス化」しない
大量な仕事を、派遣社員などをやとって、量で解決しても生産性はあがりません。 むしろその仕事がブラックボックス化してしまい、内容がわからなくなったりする可能性もあります。 派遣社員に支払う金額も多くなっていくと、社員と派遣社員がお互いに反感をもってしまう可能性もあります。 仕事量が絶対的に多く、まかないきれない場合、その仕事自体がなくすことができないか、根本的に違う方法はないか、 外注すべきか、もし外注したときの投資はそれに見合うものなのか、など精査する必要があります。
生産性の高い資料作成のためにはどうすべきか
会議で配布する資料の美しさに気をとられるのはやめ、本当の会議の目的をしっかり念頭にいれておきましょう。 どうしても決めなければならないことを決定させたいのであれば、決定のための必要なロジックや内容を精査しましょう。 しかし最初から完璧な資料を作るのではなく、事前には、たたき台のような、ブランクがある(数字等の詳細については空欄があるが、掲載内容がわかるような) 資料を作成し、この内容の資料であれば決定に不足がないか、事前に周囲に確認をとりましょう。 会議の前に裏をとったり、擦り合わせを行う人もいるでしょうが、それよりももっと生産性が高い行為ではないでしょうか。 またその資料作成の際には、話題性が高く、資料の材料に事欠かない件の資料ばかり多くなったりしないよう、偏らないようにすることが必要です。
「ポジションをとる練習」をする
会議のときの、資料を1枚にするとか、会議時間に制限時間を設定したり、たって会議を行うなど、 会議の終了時間を早めて生産性をあげようとしている会社も多くみられます。 しかし、本当に注意すべきなことは、会議の内容の生産性をあげることなのです。資料を1枚にしなくてはならないために、どうしても数枚の資料が必要にもかかわらず、1枚に収める為に苦心して長時間資料を作らなくてはならないとしたら、 時間の無駄にもつながります。意思決定がしっかりできるのであれば、3枚必要ならば3枚でもよいではありませんか。 そのような制限よりも、社員の仕事時間をストップしてまで行う会議の「内容の生産性」をあげる努力をすべきでしょう。
“生産性の低い会議とは、時間が長い会議でのことではなく、「決めるべきことが決まらない会議」のことである”伊賀氏は述べています。 日本では、自分の意見をはっきり言うことを苦手としている人もいます。しかし会議において、そのような人は生産性が高いとはいえません。 ポジションをとる==自分の意見を明確にする練習をすべきであるとも書かれています。 どんな決定も、パーフェクトはありえず、ある部分がOKだけれども、ある部分にはこのような問題がでた、 などというパターンがほとんどです。この場合、生産性の高いビジネスパーソンに必要なことは、リスクを最小におさえ、 かつリスクがおきても対応できるような意思決定を行うことでしょう。 不確定要素がありつつも、意思決定をしていくために、何ができるか考えましょう。 決める要素のロジックが足りないのか、テーブルレイアウトを考えて、皆の意見を出しやすいレイアウトにしてもよいでしょう。すこしの工夫と智恵で、会議で決定できる事項が増えることを知りましょう。
ライター自身の経験で恐縮ですが、以前の職場にとっても苦手な人がいました。その人は、仕事の優先順位つけがうまく、早く仕事を終わらせて、自分がすべきでない仕事には全く手もつけませんでした。私自身は、頑張っている姿をアピールして精神を高揚させ、長い時間をかけてでも目標をクリアしようとするタイプでしたが、結果的には疲弊しました。 生産性を高めるには、個人生活を犠牲にしないことも大事なことであると伊賀氏は述べています。今思えば、その職場において、生産性への意識がたりなかったと感じます。 生産性という概念や認識に気づくことができていれば、もう少し違った働きかたや生き方をできたかもしれないと思いました。 このように、生産性をあげることとは、非常に大きな可能性をもつ考え方なのです。みなさんもこの本を読んで、生産性をあげるためのコツを学び、仕事のみならず、人生も豊かにできる可能性をたかめてみてください!
この記事を書いた人
- 中原 玲子
大学卒業後、ファッション系商社を経て、ヨーロッパ系専門商社にてセールス、ブランディングなど経験。 セールス業務では、日本でほぼ無名だった商品の販路拡大に尽力し、入社時から売上を5倍にするなど貢献。 退職後、2児の出産を経て自身のアクセサリーブランドを起業。有名セレクトショップに販路をもつ。そのほか、他企業のマーケティング業務などにも従事。パラレルキャリア形成に関心をもち、日々格闘中。