給与のデジタル払いが解禁の見込み!導入のポイントを社会保険労務士が解説
2022/10/4
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目次
給与のデジタル払いは2023年中に解禁か
厚生労働省は、スマートフォンの決済アプリ等を使い賃金を「デジタルマネー」で支払うことを解禁する方針を明らかにしました。早ければ2023年中に解禁される可能性があります。
デジタル払いが解禁されれば、給与をスムーズにキャッシュレスサービスで利用できるようになり、買い物や納税の利便性が増します。今後予想される制度設計、企業が導入するためのポイントを解説します。
「通貨払いの原則」を見直し給与のデジタル払い実現へ
そもそも労働者の給与支払いにはルールがあります。労働基準法第24条、いわゆる「賃金支払いの5原則」として定められています。
1.通貨払いの原則(現物給与の禁止)
2.直接払いの原則
3.全額払いの原則
4.毎月1回以上の原則
5.一定期日払いの原則
この5原則のうち、通貨払いの原則で指す「通貨」とは、日本の貨幣である日本銀行券のことです。自社の商品や商品券などを賃金として支払うことは原則認められていません。
労基法では労働者本人に直接現金で支払うことが原則とされていますが、労働者の同意を得た場合は銀行口座へ振り込むことが例外的に許されています。
厚労省は給与のデジタル払いの解禁にあたり、同法第24条に関する省令を改正する方針です。
給与のデジタル払いが解禁される理由
国は給与のデジタル払い解禁を実現することで、キャッシュレス社会の促進を加速させようとしています。
経済産業省のデータによれば、日本国内のキャッシュレス決済比率は近年伸び続けており、2021年には過去最高の32.5%に達しました。
労基法の対象とならないフリーランスの報酬支払いにおいては、すでにデジタルマネーの活用が始まっています。スマホアプリから即日支払いされるサービスなどが登場し、より早く確実に報酬を受け取れる仕組みが整いつつあります。
こうした社会の変化を受け、従来の賃金支払いを見直す動きが本格化することになりました。
給与のデジタル払いを解禁するための制度設計案
給与のデジタル払いの解禁にあたっては、労働者側の懸念点に適切に対応する措置を講ずることが求められます。
デジタルマネーによる賃金支払いが解禁されると、企業は賃金を銀行口座ではなくデジタルマネーで「資金移動業者」に入金します。資金移動業者とは、キャッシュレス決済サービスを提供する民間会社です。
労働組合などからはこの資金移動業者が従来の銀行等と同等な安全性を確保できるかどうかが懸念点として指摘され、制度設計の議論が行われてきました。
その結果、下記のポイントが制度設計に盛り込まれる見込みです。
・資金移動業者の口座への賃金支払いを強制されず、労使協定を締結し労働者の同意を得た場合に限ること
・一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座への資金移動であること
給与のデジタル払いの論点:資金移動業者の指定要件
労働者保護の観点から、資金移動業者の指定要件が非常に重要です。また、指定後に要件を満たさなくなった場合は指定の取り消しが可能であることも必要です。現在の検討の方向性としては以下の点がポイントとされています。
①資金保全
銀行口座と同等又は同程度の労働者保護が図られるため、資金移動業者が破綻した場合に労働者の口座残高が保証される仕組みを有していること。
特に賃金支払い口座の残高上限を100万円以下に設定することで、資金移動業者破綻時に労働者の口座残高全額を速やかに労働者に保証すること、口座残高が100万円を超えた場合に給与が振り込めないということがないよう、超過分は当日中に労働者が予め指定する銀行口座又は証券総合口座に送金されることとされています。
②不正引き出しの補償
アカウントの乗っ取りや、その他不正利用によって、労働者の過失なく労働者に損失が生じた際に、インターネットバンキングと同程度の損失補償の仕組みを有していること。
➂換金性
ATM等を利用し1円単位で引き出しができ、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担することなく受取ができること。
④報告体制
賃金支払いに関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
⑤技術的能力と社会的信用
①~④のほか、賃金支払いに関する業務を適切かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ十分な社会的信用を有すること。
⑥その他
最後に口座残高が変動した日から少なくとも10年間はアカウントが有効であること。
給与のデジタル払いを導入する場合の企業実務
実際に企業としてデジタルマネーでの給与支払いを導入するにあたっては下記のような手続きが必要となる見込みです。
STEP1:労使協定の締結
①対象労働者の範囲、 ②対象となる賃金の範囲及びその金額、③取扱資金移動業者の範囲、④実施開始時期等を盛り込んだ労使協定を締結
STEP2:同意書の締結
企業は、労働者に対し、銀行口座又は証券総合口座への賃金支払も併せて選択肢として提示する。(提示する選択肢として、現金か資金移動業者の 口座かの2択は認められない)
また、資金移動業者の口座への賃金支払について破綻時の保証、不正引出の補償、換金性、アカウントの有効期限などを説明の上、労働者の同意を同意書で得る。
デジタル払いは信頼性が課題 大切な給与を守る仕組みが必要
いかがでしたでしょうか。すでにデジタルマネーは私たちの生活の中で当たり前になりつつあります。
「給与」の支払いをデジタルマネーで行うにあたっては、労働者保護の観点から、セキュリティや補償制度、監督の強化や個人情報の取扱などまだまだクリアしていくべき検討課題が残っています。今後も政府の議論について注視していきましょう。
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この記事を書いた人
- 寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
寺島戦略社会保険労務士事務所HP: https://www.terashima-sr.com/
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