従業員の給与を仮想通貨で支払いたい!そもそも給与をお金以外で支払うのって認められているの?

とりあえず見てみない?プロ人材リスト

プロ人材リスト

  • 30人以上のあらゆる施策の上位5%プロ人材をご紹介!
  • 貴社にマッチする最適なプロ人材が間違いなく見つかる!
  • プロ人材の職種/経歴/実績など、詳細な人材をまとめて解説!

給与をお金以外で支払う?!

今、報酬の一部をいわゆる「お金」以外で支払うという取り組みをしている企業が先進的なITベンチャー企業を中心に増えています。

インターネット大手のGMOインターネットグループも2018年2月から従業員の希望に応じて、給与の手取り支給額の一部をビットコインで受け取ることができる制度を導入しているそうです。

GMOインターネットグループは仮想通貨事業をサービスとして手掛けているということもあり、従業員にビットコインになじんでもらうことで、仮想通貨事業の推進につなげたいという目的があるようです。

また、最近「ピアボーナス」という一種のポイントで従業員の報酬の一部を支払うという企業も増えています。

ピアとは英語で「仲間、同僚」の意味ですが、こうした「仲間、同僚からもらう成果給つまりボーナス」がピアボーナスというわけです。

このピアボーナスはアメリカのグーグルでも社員の評価指標のひとつとして導入されています。

日本の一般的な企業では、年2回賞与を支給するというのが一般的ですが、この一般的な賞与制度は評価者である経営者や管理職が、社員の能力や実績を査定して支給額を決めるという仕組みであり、評価者が日ごろ見えない仕事の成果が、報酬に反映されにくいというデメリットがあります。

ある調査によれば、現在の評価制度は適切でないと思っている社員は約5割もいるそうです。こういった背景から、日本でも経営者や管理職ではなく仲間・同僚の評価を反映させようとピアボーナスを導入する企業がITベンチャー企業やスタートアップ企業を中心に現れ始めています。

ピアボーナスの導入を支援するサービスにはいくつか企業がありますが、基本的な仕組みとしては「仕事で良い行いをした社員に対し、他の社員がスマートフォンやチャットツールから感謝の言葉を添えてポイントを送るシステム」というのが標準的になっています。

やりとりは全社員がタイムラインで共有することができ、社員が互いに誉め合い、感謝を送り合うSNS的機能も特徴となっています。
こうして社員同士で送り合ったポイントは、各導入企業が定めたルールで給与に還元していくという仕組みです。

現場の評価をリアルタイムに、しかもチャットツール等で簡単に反映させていけるピアボーナスは、「従業員が増えてきて創業期には浸透していたはずの会社の行動理念が薄れていっている・・・」というベンチャー企業や従業員のエンゲージメントのアップを図りたいという企業には相性の良い仕組みであると思います。

このように仮想通貨やピアボーナスなどを利用して従業員への給与を支払っている企業も少しずつ増えてきており、「自社でも検討したい!」という人事担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このような場合どのようなことに気を付ける必要があるのか、今回はこちらを解説していきます!

給与の支払いをめぐる法律

給与

そもそも、従業員に支払う給与というのは、いってみれば労働者の生計の源、生きていくために必要不可欠なものですので、給与に関しては労働基準法で厳しくそのルールが定められています。

具体的には、労働基準法24条において給与は「通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定に期日を定めて支払わなければならない」という基本5原則が定められています。まとめると下記の5原則を守る必要があるのです。

【労働基準法上の給与支払い5原則】
1.通貨払いの原則:通貨で支払わなければならないというルール
2.直接払いの原則:支払い方は、直接、労働者に支払わなければならないというルール
3.全額払いの原則:全額を支払わなければならないというルール
4.毎月1回以上払いの原則:必ず毎月1回以上、支払わなければならないというルール
5.一定期日払いの原則:一定の期間を定めて支払わなければならないというルール

この中でも仮想通貨やピアボーナスでの給与支払いに関連するものとしては、1.通貨払いの原則と3.全額払いの原則が関わってきます。

通貨払いの原則

1.通貨払いの原則とは、原則的に通貨以外のものによる給与の支払いは認めないよというルールです。簡単にいえば昔の物々交換のようにお米で払ったり、自社商品で払ったり・・・というような現物給与は認めないということです。

しかしこれには例外があり、現物給与を支給したいという場合は、労働組合との労働協約(取り決めルール)の締結があれば現物給与での支払いが認められています。逆に言えば労働組合がない会社では現物で給与を支払うことができません。

また、現物給与で支払うことができるのは、労働協約を締結した組合の所属組合員に限定されます。所属組合員以外の労働者に対しては現物給与による支払いはできません。

つまり仮想通貨で支払うといった場合には労働組合との労働協約が必要になると考えられます。

全額払いの原則

また、3. 全額払いの原則についても一部を仮想通貨やピアボーナスで支払う場合にはひっかかってきますがこれは労働者の過半数代表との労使協定があれば給与の一部を控除することは可能です。

財形貯蓄制度や社員持株会、自社製品購入費などを給与から控除するという企業もあるのではないでしょうか。この場合にはすでにこうした労使協定を締結して行われています。

今回GMOインターネットは、「本人の希望に応じて一定額を給与から控除し、その控除分をビットコインの購入に充当する」という形式をとっており、そもそも給与を労働者の同意関係なく仮想通貨で無理やり支給しているという訳でもないので、1.通貨払いの原則にはひっかからないという立て付けとし、3.全額払いの原則については労使協定を結んだうえで給与の一部を控除しビットコインの購入に充当しているものと考えられます。

このように、賃金については厳しい原則があり、基本的には労働者代表との労使協定や労働組合との労働協約を締結して「お金」以外の支給が可能になるというルールとなっていますので、法律を理解することなく「給与を全額仮想通貨で支払おう!」「給与を自社が発行しているポイントで払おう!」とするのは危険です。

仮想通貨の支払いやピアボーナスを導入している企業は賃金の5原則にひっかからぬよう対応する必要があるというわけです。

仮想通貨・ピアボーナスの給与支払い導入におけるその他の留意点

こうした仮想通貨やピアボーナスを給与の支払いに導入するという場合に気を付けなければならない点としては下記のようなものが挙げられます。

1. 規程の変更

従来の賃金体系を変更する場合には給与規程の変更が必要です。

ピアボーナスを導入する場合の規程例:

(ピアボーナス給)
第●条 ピアボーナス給は、日ごろの社員間の業務上の貢献に対して感謝を送りあうことにより、部門・職種間を超えた人的コミュニケーションを促すとともに、会社の行動理念・経営理念を体現するような社員の称賛されるべき行いへのインセンティブとして毎月基本給と合わせて支給する。

また、導入の際の注意点ですが、基本給の一部を減額して、原資を確保してピアボーナス給や仮想通貨の購入に割り当てるというようなことは、労働条件の不利益変更となります。

一方的に基本給を減額して導入するなどという労働条件の不利益変更は原則として認められませんので、そのような方法を取りたい場合には労働者の個別同意等を取り付けておく必要がありますし、現実的には同意を取り付けるのが難しいかもしれません。

2. 割増賃金の計算方法

毎月賃金としてピアボーナスや仮想通貨を支給するという場合これらも給与として割増賃金の基礎とすべき給与となります。
割増賃金の計算から除外できる賃金は、(1)家族手当(2)通勤手当(3)別居手当(4)子女教育手当(5)住宅手当(6)臨時に支払われた賃金(7)1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金、の7種類に限定されていますのでこのようなものに該当しない場合には全て割増賃金の基礎に入れる給与となります。

  1. 社会保険・労働保険料の算定基礎
    ピアボーナスや仮想通貨についても毎月給与として支給するとなった場合には社会保険料や労働保険料を算定する際に含めるべき賃金とみなされます。社会保険の変更や保険料算定の基礎に入ることになりますので注意が必要です。
    特に2、3に関しては現時点において豊富な事例があるわけでもなく、年金事務所等にも取り扱いの確固たるルールがあるとは限りません。

給与として支給する場合には必ず導入しようとするルールを管轄の年金事務所等に説明し、コンプライアンス上問題のないような対応が必要です。

私が知る例では、仮想通貨の場合は「賃金の一部を控除し購入に充てるというGMOインターネットのようなケース、ピアボーナスの場合には「毎月の賃金として支給するのではなく、賞与としてまとめて支給する」ことで社会保険料等の取り扱いの煩雑さを和らげるというケースが多いように思います。

仮想通貨の給与支払いは不明確な点がまだ多い

いかがでしたでしょうか。仮想通貨やピアボーナスといったものでの給与の支給については法律でも制限されているところであり、また社会保険等の取り扱いが明確になっていないところでもあります。

今回執筆にあたりベンチャー企業の多い渋谷にある渋谷年金事務所等にも確認しましたが、やはり取り扱いについてはやや不明瞭なところも多くあるように感じました。

導入の際には専門家に相談しながら進めることをお勧めいたします。

キャリーミーはマーケティング・広報領域を中心にプロ人材を紹介しています!

サービス資料

  • 中途採用では出会えない優秀な人材が自社のメンバーに!
  • 戦略から実務まで対応、社員の育成など業務内容を柔軟に相談!
  • 平日日中の稼働や出社も可能!

この記事を書いた人

_DSC2239WEB2
寺島 有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。

寺島戦略社会保険労務士事務所HP: https://www.terashima-sr.com/
2020年9月15日、「IPOをめざす起業のしかた・経営のポイント いちばん最初に読む本」(アニモ出版)が発売されました。
その他: 2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。