「プロ契約」をコンセプトに掲げ、プロ人材と企業とのマッチングサービスを展開しているキャリーミーは、2019年にプロサッカー選手である本田圭佑氏をアンバサダーに迎え（プレスリリースでの発表は2020年4月）、また、本田圭佑氏創業の「HONDA ESTILO株式会社」引受先とした第三者割当増資による資金調達を実施しました。(この契約に関するプレスリリースはこちら)
本契約について、キャリーミー代表の大澤にインタビューを実施。本田圭佑氏との出会いから、契約合意の決め手となった「ひと言」まで、貴重なエピソードをたっぷりお届けします！

キャリーミーが本田圭佑氏とコラボレーションしたかった理由

ー大澤さんが、本田圭佑氏とコンタクトを取られたきっかけは何ですか？

「プロ契約」という新しい市場を作るためには著名人の認知を借りることが近道です。そこで、プロ契約のイメージにマッチする著名人から投資いただくか、コラボレーションができないかと2019年5月ごろに考え始めました。

キャリーミーが、シリーズAとして人材業界大手のパーソルさんから1.3億円の調達を進めていた頃、あるエンジェル投資家の方とも交渉を進めていたんです。そのエンジェル投資家の方は非常に優秀で人脈もあるし、今後目指す人材系のビジネスモデルに対する知見や投資歴、ノウハウも豊富に持たれていました。

エンジェル投資家には、ある程度のインセンティブを提供しつつ、顧問的な立ち位置でジョイン頂いたんです。

本田さんがスタートアップへの投資をしているのは僕も知っていたので、そのエンジェル投資家の方に、「本田さんと一緒に投資をしていたりしませんか？本田さんをご存じではないですか？」と聞いてみたんです。

そしたら「一緒に仕事をしているし、LINEも知っているから繋いであげるよ」とお返事いただいて、LINE　LIVEでのプレゼンテーションが実現しました。それが2019年の8月中旬です。

ーなぜ本田圭佑氏に投資いただきたかったんですか？

理由は大きく2つありました。

一つは、「ビジネス界にもプロ契約を」をコンセプトに掲げているキャリーミーにとって、本田さんのイメージがピッタリだったこと。

本田さんは、年間契約のサッカー選手の世界でも「プロ」として、成果にコミットする姿勢が印象的です。結果が良ければ契約は継続されるし、ダメだったら切られてしまう、そういう厳しい世界を生き抜いてこられた人というイメージですね。

それからチャレンジ精神。サッカーだけじゃなく、ビジネスや監督業へもコミットしているチャレンジ精神は、キャリーミーが提唱している「パラレルキャリア」、複数の仕事を同時にこなすという姿ともマッチしました。

もう一つの理由が、圧倒的な知名度。　HR系やプロを売りにしている他社に絶対に取られたくない方だったということ。なぜ今までHR系やプロを売りにしている他社が本田さんを放置していたんだろうと思ったくらいです。

特にプロ人材といわれる僕たちの領域って、2017年ごろは競合が全くいなかったんですが、徐々に他社も増えてきたので、本田さんが同業種に1社しか投資しない、もしくは著作権などの活用を許可しない、という方針だとすると、他社には絶対取られたくないと。

プロのイメージに一番ピッタリな著名人である本田さんを自分たちが取りに行くんだという気持ちですね。

キャリーミーが本田圭佑氏へのプレゼンテーションで準備したこと

ーでは、本田圭佑氏にプレゼンテーションをするにあたり、どんなことを準備されましたか？

キャリーミーのシリーズAでの資金調達で、僕は十数社、ベンチャーキャピタルや投資家と話をしてきましたから、プレゼンテーション自体には慣れてました。しかしサッカー選手であり投資家や実業家でもある本田さんの視点は、投資を主としている彼らのそれとはちょっと違うだろうなと考えました。

▲シリーズAの資金調達

通常ベンチャーキャピタルなどでは将来性を重視します。キャリーミーは今後どうなっていくのか、その根拠は？海外では？という具合に。

しかし本田さんへのプレゼンテーションで強調すべきことを僕は以下の３つに変更しました。
具体的には、「僕がどういう人間なのかプレゼン」、「キャリーミーの実績説明」、「リスクが少ない投資スキームの提案」です。

ちょうど1年間で売上が7倍に増えて黒字化した時期でもあったので、キャリーミーの実績をメインにプレゼンしましたね。それから僕自身のプロフィールにかなり時間を割いて、自分を意識して売り込みました。具体的な内容は、

・複数回の創業経験があり、うち2回の事業売却に成功している　（だから、過去の株主には1度も損をさせていない）
・過去に何度も新規事業を立ち上げているため小さな失敗はあるが、倒産などの大きな失敗はない　（むしろ小さい失敗経験があることをアピール）
・人材業界「ど真ん中」であり、この分野に知見をもち、業界大手の１つであるパーソルグループさんから、是非出資したいと言って「既に」出資頂いている。（当然、デューディリジェンス、つまり投資先の調査を済ませたうえで投資をして頂いている）
・パーソルグループ以外でも、2社から同じタイミングで投資を頂いている。

といった実績をアピールしたんです。

また、困っているので本田さんに投資をお願いするというスタンスではなく、これだけうまくいっている事業だから、投資をするメリットがあるということを意識して伝えましたね。

そのうえで「1か月以内に契約を決めて頂けるなら、パーソルさんと同じバリュエーションで投資頂く形で良いです」と提示をしました。

通常、スタートアップへの投資においては、同じタイミングでは同じバリュエーションになるんですが、期間が経つとバリュエーションが高くなります。パーソルさんには先にOKを頂いて、本田圭佑さんと契約になる場合は、同じバリュエーションで投資の契約を頂けるようにしたんです。

パーソルさんにとっても、キャリーミーが本田さんと契約できれば認知の面でメリットがあるため了承頂き、こうした内容を本田さんにプレゼンをした形ですね。

リスクが少ない投資スキームとは、ちょっとここでは割愛させて頂きますが、通常投資とは必ずリスクが伴います。VCであれエンジェルであれ、投資会社は常に「リスクを減らして、リターンを最大化する」ことに頭を使っているので、ここはこれからVC等から資金調達をしたいスタートアップ等は考えられた方が良いと思います。

「プロであれ」本田圭佑氏も共感したキャリーミーの理念

▲本田圭佑氏と大澤の対談

ー大澤さんのプレゼンテーションを聞いた本田圭佑氏の反応はいかがでしたか？

まず彼は「共感します」と。営業やマーケティングの領域でも「プロ」と呼べるスキルの高い人がもっと世の中で活躍できる環境を作っていく事業はぜひ応援したいと言ってくれました。

彼の発した言葉のなかで非常に印象的だったのが、
「ご自身もプロサッカー選手であると同時にプロの営業マンという意識もあった」
というニュアンスでお話をされていたことです。

実力だけあっても、その実力を監督や周囲に認めてもらえないと意味がない。であれば、認めさせるだけのコミュニケーション力、営業力的なスキルも兼ね備えているべきだという考え方なのかな、と思いました。勝手な解釈かもしれませんが。

彼はサッカー選手ではあるけれども、その裏では自分自身を売り込んできて、ここまで活躍されている。本田さんは、監督業やビジネス展開においても、自らのプレゼンテーションが長けているイメージがあります。

また、キャリーミーの売上が急成長しているところも非常に評価頂き、そこでも前向きなコメントを頂きました。

話した直後から、僕自身かなり手ごたえを感じましたし、想像していた以上に本田さんに共感頂けたようで、ありがたかったですね。お話ししてよかったと思いました。

ー本田圭佑氏は、野性的で、アグレッシブというイメージが一般的には強いと思うのですが、実際にお話した時の印象はいかがでしたか？

いい意味で、やっぱりギラギラはしてましたね(笑)。よくTVで見ている本田さんだなと。コミュニケーション力に長けた、良い人でしたね。

今回は僕がプレゼンテーションする側だったので彼がぐいぐい話をするような場面はなかったのですが、今回ありがたいことに「投資したい」と思ってくださったんですよね。そこで彼らしさが出たというか。

彼のスタンスに、我々の事業がマッチして強い共感を持ってくれたのかなと思います。

本田圭佑氏に見た「起業家」という存在への共感とリスペクト

ー本田圭佑氏のような方だと、競合も多いと思います。何とか投資してもらいたいと思っている企業も多いと思うのですが？

出資を希望する企業が多く、本田さん側が（当然のことながら）断ることも多い、という話も聞きました。断った企業の中には、多くの人が知る大企業や勢いのある企業も含まれていたようです。

「自分の事業もあるし、知人からの紹介であっても投資の確約はできない。それでも良ければお話を伺います」という前置きがありましたが、ダメもとでチャレンジしようと思い、ぜひお願いしますとお返事しました。ところが話を聞いて下さったらぜひ投資したいという形になって。ちゃんと準備しておくものだなと思いましたね。

ー競合も多く、複数の投資を断られていた本田さんが、キャリーミーに投資を決めた一番の理由はどこだと大澤さんは感じられますか？

もちろん、信頼できる人からの紹介ということもあるかもしれません。ただ、一つ思い当たるのが、バリュエーションの話をした際の本田さんの反応です。時価総額について説明する際「このステージの会社にしてはちょっと高いかもしれないですが、パーソルさんやそのほかの会社さんもこれで合意し、投資いただいてます」という説明をしました。

そこで本田さんが、バリュエーションに対して評価してくれたんです。

事業が急成長していることとその見通しを評価してくれ、複数回のエグジットの経験がある大澤がプロの経営者として経営していることにリスペクトしてくれた、と勝手に思っています。

また、本田さんから動画でも応援メッセージを頂いている通り「実力主義の社会の実現」に共感していること、キャリーミーに投資することで実力をつけてチャレンジするプロ人材を間接的にでも応援したい、という気持ちがあることも理由なのだろう、と思っています。

▼本田圭佑氏のメッセージはこちら！
https://www.youtube.com/watch?v=uUy2QqbwhBU

これまで僕が話した投資家の中でもバリュエーションが高すぎると言われることもあって、起業家や経営者へのリスペクトが全然なく、時価総額を小手先の交渉で下げようとしてくる人もいます。

でも本田さんは事業を運営するプロへのリスペクトを持ち合わせていて。こちらもリスクをとってプロとして経営しているつもりなので、僕をプロの経営者として認めてくれたんだなと感じうれしかったですね。

人より何倍も「プロ」であることを意識している本田さんだからこそ、我々の事業やこれまでの僕自身の起業家としてのキャリアに強く共感頂いて、今回の投資が実現したのかなと感じました。