2022年7月度「副業・兼業ガイドライン」改訂内容を社労士が解説!企業に求められる「情報公開」とは
2022/8/8
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目次
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」とは
2022年7月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改訂しました。
このガイドラインは、現行の法令のもとで労働者が副業・兼業を行う場合、または企業が労働者に副業・兼業を行わせる場合に、どんな事項に留意すべきかをまとめたものです。
副業・兼業は、労使の期待の高まる新しい働き方の一つではありますが、その特性から長時間労働になり労働者の健康が阻害されてしまう面も懸念されます。
そのため、過重労働を防止し健康確保を図りつつ、労働者の副業・兼業が適法に行われるよう、ガイドラインが発行されています。
参考記事:企業が業務委託を活用するメリット・デメリットを会社経営者が解説
副業・兼業ガイドライン作成の背景
副業・兼業ガイドラインは2018年1月に作成され、2020年9月、そして今般の2022年7月と、2度に渡り刷新されています。これはすなわち国が労働者の副業・兼業を積極的に応援している、ということに他なりません。
副業・兼業の促進の背景には、終身雇用が当たり前ではなくなった社会状況や、人生100年時代に向けた労働者の自己実現支援など様々な理由があります。なにより、国が副業・兼業を自国の経済活性化の手段の一つに位置づけていることが大きいでしょう。
日本経済の活性化には、企業による新事業創出や、創業・競業による産業界の新陳代謝により、新たな需要と雇用が創出されることが非常に重要であると考えられています。
一方で、中小企業白書によれば、日本で起業を希望する人や起業家は減少傾向にあります。諸外国に比べ、起業に対して前向きな意識を持つ人もまだ多くはありません。
このような創業に対する意識や環境の一つの解決の方向性として、兼業・副業の促進が有効だと考えられています。
兼業・副業とは、一般的に「収入を得るために携わる本業以外の仕事」を指しますが、兼業・副業によって「まずは小さく創業する」「利益を生むかどうか見えない事業を始めてみる」ことで起業・創業のきっかけを創出することができます。また、他社の人材を自社で勤務させるなど、人材確保を容易にする利点もあります。
そのため、副業・兼業を促進することが、「創業」「新技術の開発」の支援につながり、日本経済の活性化に直接寄与すると考えられています。
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」2022年7月度改訂内容
2022年度の改定の目的は、「副業・兼業を希望する労働者が、適切な職業選択を通じ、多様なキャリア形成を図っていくことを促進する」というものです。具体的には次の改訂がなされています。
「副業・兼業に関する情報の公表」を追加
企業に対して、副業・兼業への対応状況についての情報公開を推奨しています。
情報が開示された場合、労働者が就労先を選択する際に、副業の可否などを判断材料にしやすくなります。これにより労働者の多様なキャリア形成が一層叶えやすくなります。
公表の対象となる副業・兼業としては、例えば、他の会社等に雇用される形での副業・兼業が挙げられますが、副業・兼業の促進に関するガイドラインの趣旨に照らし、事業主となって行うものや請負・委託・準委任契約により行うもの(※)について公表することも考えられます。
※フリーランス、独立、起業なども含まれます。
2022年7月以降は、副業・兼業を許容しているか否か、また条件付き許容の場合はその条件について、各社は自社のホームページ等において公表することが望まれます。
また、副業・兼業が許容される条件等に変更があった場合には、速やかに自社のホームページ等で情報が更新されることが望まれます。なお、ホームページ以外の公表方法としては、会社案内(冊子)や採用パンフレット等が挙げられています。
副業・兼業ができるかは労働者の会社選びで重視されつつあります。マイナビが2020年に行った調査では、20代〜50代の転職者の6割以上が「副業可能」の求人に「応募意欲が上がる」と答え、副業・兼業を容認している企業への興味が高いことが明らかになりました。
情報公開が進めば、副業・兼業を解禁した企業に人材が集まりやすくなる可能性もあります。副業・兼業解禁前の企業は、ガイドライン改訂を機に社員の副業・兼業のメリットを再確認してみてはいかがでしょうか。
参考記事:【無料テンプレあり】業務委託個別契約書とは?基本契約書との違いや作成時の注意点を徹底解説
副業・兼業ガイドラインを受けて、副業・兼業解禁の前に企業が検討すべきポイントと対応
企業が労働者の副業を解禁する前には、労務上の取り扱いを事前に確認しておくことが必要です。
副業・兼業とはガイドライン上「2つの仕事を掛け持ちすること」を指しており、企業に雇用される形で行うもの(正社員、パート・アルバイトなど)、自ら起業して事業主として行うもの、コンサルタントとして請負や委任といった形で行うものなど、さまざまな形態があります。
今回は、自社でも他社でも雇用される場合の各種取り扱いを記載します。
なお、1社で雇用されつつ、もう1社で雇用形態以外の副業・兼業(業務委託、起業、役員就任等)を行う場合は特段労務上の問題は生じません。
2つ以上の事業所で勤務する場合の労働時間の管理
本業の会社と副業・兼業先で同時に雇用される場合、労働基準法における労働時間等の規定の適用はどうなるのでしょうか。
労働基準法第38条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合も含みます。そのため本業先と副業・兼業先の労働時間は通算されます。
この労働時間の通算ですが、以下のような順序で行われます。
・まず労働契約の締結の先後の順に所定労働時間を通算し、
・次に所定外労働の発生順に所定外労働時間を通算する
通算された労働時間は各社の36協定の範囲内としなければなりません。労基法に定める時間外の上限規制の範疇とする必要もあります。また各社は労働時間を通算して法定労働時間を超えた時間のうち、自社が労働させた部分について、割増賃金を支払う必要があります。
参考記事:業務委託の避けるべきトラブル事例5選!契約上の注意点を徹底解説
2つ以上の事業所で勤務する場合の社会保険(健康保険・厚生年金保険)について
社会保険の適用要件は、それぞれの事業所で下記の適用要件を満たすかどうかを判断します。それぞれの事業所では適用要件を満たさないが、合算すると要件を満たす場合であっても加入することはできません。
【社会保険の適用要件】
・適用事業所に常時使用され、70歳未満であること。
・1週間(1か月)の所定労働時間が、通常の労働者の4分の3以上であること。
・1週間(1カ月)の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満であっても、次の5要件をすべて満たす方は、被保険者になります。
①1週の所定労働時間が20時間以上あること
②雇用期間が1年以上見込まれること(※)
③賃金の月額が8.8万円以上であること
④学生でないこと
⑤特定適用事業所または任意特定適用事業所に勤めていること(※)2022年10月より、②は要件から除かれます。
それぞれの事業所で要件を満たす場合は、まず両方の事業所で資格取得の手続きを行った上で、被保険者が被保険者所属選択・二以上事業所勤務届を提出します。健康保険証は2枚発行されるわけではなく、この届出によって被保険者が選択した事業所から発行されます。
保険料については、それぞれの事業所で支払われる報酬額を合算して標準報酬月額と社会保険料額が決定されます。報酬額の按分比率に応じて社会保険料も按分され、各事業所に通知されます。
傷病手当金などの保険給付は、この決定された標準報酬月額に基づいて給付されます。
もちろん将来もらえる年金額の基礎にもそれぞれの事業所の報酬は算入されます。
2つ以上の事業所で勤務する場合の雇用保険について
雇用保険の適用要件は、それぞれの事業所で下記の適用要件を満たすかどうかを判断します。
①31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。
②1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
もしそれぞれの事業所で要件を満たす場合は、主たる賃金を受ける事業所でのみ被保険者となります。雇用保険料の支払いは加入している事業所でのみ発生しますが、給付についても、加入している事業所から支払われる賃金額をもとに算定されます。
ただし、65歳以上で複数の事業所に雇用される労働者が、それぞれの事業所での労働時間が雇用保険の加入要件を満たさなくても合算すると要件を満たす場合に、労働者本人が申し出れば雇用保険に加入できるマルチジョブホルダー制度が2022年1月1日より開始されました。
この場合は労働者が申し出た日から、それぞれの事業所で雇用保険料の納付義務が発生します。
マルチジョブホルダー制度によって被保険者になった労働者は、失業給付だけでなく育児休業給付・介護休業給付・教育訓練給付等も対象となります。
2つ以上の事業所で勤務する場合の労災保険について
労災保険については、副業・兼業か本業かにかかわらず、事業主は労働者を1人でも雇っていれば加入しなければならないため、それぞれの事業所で加入します。
労災保険料については、本人負担分はなく事業主負担分のみ発生します。
給付額については、従来は災害が発生した事業所の賃金分でのみ算定されていましたが、2022年の法改正により、それぞれの事業所での賃金を合算して算定することになりました。
また労災認定にあたっても、それぞれの就業先での業務上の負荷を総合的に評価します。
なお、本業の事業所での勤務を終えて、副業の事業所に向かう際に事故にあった場合も、通勤災害とみなされます。
以上、自社でも副業・兼業先でも雇用される場合は労務上注意しなければならないポイントが多くあります。そのためまずは自社の就業規則にて副業・兼業に対する運用方針を確立し、就業規則に反映することが必要だと考えます。
労働者の方が勝手に副業・兼業を始めてしまうようでは事業所側でも管理しきれないため、副業・兼業については事前申請制にすることをお勧めします。
副業・兼業の就業規則の作り方については、下記の記事をご覧ください。
https://carryme.jp/agent/side-job-law/
副業・兼業ガイドラインを活用して働き方の新たなルール作りを
冒頭でも記載した通り、副業・兼業は労働者の多様なキャリア形成のみならず、日本経済を再成長させる可能性を秘めた新しい働き方の一つです。
その一方で、労働者の長時間労働の温床ともなりえますし、機密漏洩なども懸念されます。各企業は就業規則に自社のルールを定めたうえ、適法な運用を実施することが不可欠となります。
企業側も労働者側も、ガイドラインをよく読み、しっかりと理解を深めたうえで副業・兼業への取り組みを行って頂きたいと考えます!
参考記事:業務委託の費用相場は?コストを抑える方法や実際の依頼内容も紹介!
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この記事を書いた人
- 寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
寺島戦略社会保険労務士事務所HP: https://www.terashima-sr.com/
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その他: 2020年7月3日に「Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ」が発売されました。代表寺島は第1章労務パートを執筆しています。