年次有給休暇の確実な取得促進を!5日取得義務について社労士が解説
2022/3/2
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いよいよ年度末が近づいてきました。
年度末に向け業務繁忙が続く企業様も多いかと存じます。日々従業員の時間外労働や休日労働も発生するなか「年次有給休暇の取得にまで気を配っていられない」といった人事担当者様の声も多く伺います。
年次有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュ、疲労回復、労働力の維持培養のために、労働者に与えられる休暇です。
「当社には無い、与えない」といったことは通用せず、法定の基準を満たした労働者に対して、当然に発生するものです。
2019年4月に労働基準法が改正され、「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が使用者に義務付けられました。法定の年次有給休暇が年10日以上与えられている全ての労働者に対し、使用者は、付与日から1年間に5日、年次有給休暇を確実に取得させる必要があります。
今回はこの「年5日の年次有給休暇の確実な取得」について解説していきます!
年次有給休暇に関する基本的なルール・対象者
まず、労働基準法上の年次有給休暇の発生要件から確認していきます。
年次有給休暇が付与される対象者
労働基準法において、労働者は、以下の2点を満たせば年次有給休暇を付与されることになっています。
①雇い入れの日から6か月継続勤務している
②全労働日の8割以上出勤している
原則となる付与日数も法律で決まっており、
・継続勤務6か月で10日
・1年6か月で11日
・2年6か月で12日
というように最高20日まで増えていきます。
パートタイムなどの有給休暇は「比例付与」を
労働者が、管理監督者であっても、非正規雇用者であっても上記の通りですが、パートタイム労働者など、そもそもの所定労働日数が少ない方には「比例付与」が認められています。
所定労働時間が週30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下(または年間の所定労働日数が216日以下)の労働者には、 年次有給休暇の付与日数も按分付与することが認められています。
年次有給休暇と時季変更権について
1年で年10日以上の年次有給休暇を与えられている労働者が、次章で述べる「年休5日取得義務」の対象者になります。
なお年次有給休暇は「労働者が請求した時季に与えること」とされており、会社が時季変更権を行使しなければ取得時期を変更することができません。
時季変更権というものは、労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる」場合に、使用者が行使できる権利です。
これを使えば、労働者の年休の行使日を変更することが可能です。(が、同一日に多数の労働者が休暇を希望したためその全員に与えることが難しいなど、相当なレアケースに対して行使が可能、というイメージではありますので安易に時季変更ができるわけではありません。)
また、年次有給休暇の請求時効は2年になっています。その年に利用しなかった分は翌年にも繰り越せることになります。
年5日の年次有給休暇の確実な取得
前述の通り、年5日の年次有給休暇の取得の対象者は、「法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者」に限ります。
使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日といいます)から1年以内に5日の年次有給休暇を取得させなければなりません。
5日の取得についての具体的な方法ですが、使用者は「労働者自らの請求」、「計画年休」及び「使用者による時季指定」のいずれかの方法で年次有給休暇を取得させる必要があります。
「労働者自らの請求」はイメージの通り、労働者が自主的に年休を取得する方法です。
「計画年休」は、前もって計画的に使用者側が休暇取得日を割り振ります。
いつ割り振るかについては使用者側が決定することができ、例えば業務の都合上、業務停止の必要がある日(点検のため工場の電源を落とすなど)、お盆休みの時期や年末年始などが一般的なものとして挙げられます。
使用者は計画的に労働者に年休消化をさせることができ、労働者としてもためらいを感じずに取得できるといったことがメリットです。就業規則による規定と労使協定の締結が必要です。
「使用者による時季指定」は、使用者が労働者の意見を聴取した上で、時季を指定して取得させる、という方法です。(前述の「労働者自らの請求」「計画年休」で基準日から年5日の年次有給休暇をすでに取得している労働者に対しては実施する必要がなく、実施することもできません。)
使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努めなければなりません。
意見聴取は、面談や管理表、メールやシステムなど、任意の方法で行うことができます。その意見を尊重し、使用者は労働者の年次有給休暇取得時季を決定します。
上記で見てきた通り「使用者による時季指定」は、自主的に年休5日の取得ができない労働者に対しての最終手段という形で実施します。
実務としては、仮に4月1日に年次有給休暇を一斉に与えるという事業場であれば、労働者に対して「9月までの半年間にて、自ら請求して5日年次有給休暇を取得するように」などとルールを設定します。
10月になっても年に5日の年次有給休暇の消化ができていない労働者をピックアップし、取得フォローを行ったうえでも年5日の年休が取得できない、ということであれば、使用者側から対象者に意見聴取の上、時季指定をするという流れになると考えています。
なお使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。(賃金台帳と合わせて作成しても問題なく、必要時に出力できる仕組みとしてシステム上で管理することもできます。)
年次有給休暇消化のよくある疑問とその対応
Q「年休5日取得義務のある労働者のうち、基準日からの1年の途中で休職に入ったり、育児休業期間に入ったり、退職する労働者については、対象となるか?」
⇒A対象者の労働日が5日以上あって年5日の年休の取得ができる状況にあるならば、原則として取得義務の対象となります。取得義務があった労働者が、年休5日を取得しないまま退職してしまったなどというケースは法違反には該当します。なぜそうなってしまったのかという原因の究明、および改善策が求められます。
Q「半日単位年休や時間単位年休は5日取得に含めることができるか?」
⇒A労働者の希望によって半日単位で取得した年次有給休暇は年5日にカウントすることができますが、時間単位の年次有給休暇については労働者の希望であってもカウントすることができません。
Q「どんなに年次有給休暇の取得をするように指導をしても、時季指定をしても、年次有給休暇を取得しない労働者がいる。法違反となるか?」
⇒A労働者が使用者の指示に従わず、自らの判断で出勤したとしても、使用者がその労働を容認し、受領しているということにほかなりません。そのためこのような状況であっても、当然に労働者は有給休暇を取得していないということになり、法違反にはなってしまいます。そのため、5日取得義務のことを丁寧に説明しつつ、取得を根気強く要請するということになります。
まとめ|まずは休暇取得がしやすい環境作りを
どの企業様からも、業務繁忙によって労働者の年休取得促進が難しい、といった声はよく聞きますが、年次有給休暇の取得による休息や休養は、労働者が永く活躍していくためにもとても重要です。
・会社主導で夏休みや年末年始に合わせた年次有給休暇取得促進キャンペーンを行う
・仕事はチームで進捗を共有して個人が休みやすい状況を整える
・取得において何が課題になっているかを労働者にヒアリングする
上記のような、具体的な取り組みに落として実施していきましょう。
より良い休みはより良い働きに必ずつながります。年次有給休暇取得の呼びかけを通して、長く働きやすい風土づくりを労使で実施いただきたいと考えます!
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この記事を書いた人
- 寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
寺島戦略社会保険労務士事務所HP: https://www.terashima-sr.com/
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