【中小・ベンチャー企業の海外進出対策】海外赴任の労務管理のポイントとは?
2019/4/22
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目次
中小・ベンチャー企業でも海外進出する時代。海外赴任者への労務管理は?
中小企業・ベンチャー企業でも海外進出に積極的に取り組んでいるところが増えています。
弊社の顧問先のベンチャー企業でも海外に何拠点も現地拠点を設けているというところが多くあります。
日本市場で成功しているITサービスを海外現地でも展開したい、日本の名産品を海外市場に売り込みたいといった販路拡大を目的として進出する企業が多くなっています。
企業が海外進出をするにあたっては、現地の方を雇用するということももちろんですが、日本から現地に社員を赴任させる必要があるケースが多くなっています。
弊社でも、海外進出時に現地に送り込む赴任者の労務管理をなにからどうやって取り組めばよいのかわからないといったお声をよく聞きます。
今回は、企業が日本から現地に社員を海外赴任させる場合の労務管理のポイントを解説します。
海外赴任者の労務管理の基本
まず大前提として、海外赴任者には日本の労働基準法などの労働法規は適用されません。
わかりやすく言えば、割増賃金の支払いや労働時間規制といった労働法規を守らなかったとしても労働基準法違反として行政指導を受けたり、罰則が適用されたりということはありません。
一方で、海外赴任地の法律には従う必要があります。つまり、もしアメリカに進出したとすればアメリカの労働法関連の規定に従う必要があるということになります。
※専門的な話になるので詳しくはここでは割愛しますが、企業には従業員の安全に配慮するという民事上の責任がありますのでこの民事上の責任は依然として残されています。
そのため、海外赴任者には労基法が適用されないからといって企業が無尽蔵に働かせるようなことはできないですし、特に昨今過労死の問題等で厳しくなっていますので、日本で勤務させていた時のような配慮は引き続き必要となりますので注意が必要です。
海外赴任者の労務管理のポイントとしては大きく分けて、労働条件の決定、社会保険・労災・税務等の取り扱い、給与設計がありますのでそれぞれ簡単にご紹介させていただきます。
労働条件の決定
海外赴任者は通常日本から海外赴任地に出向させるという形態をとる企業が多くなっています。出向とは、出向元(日本)と出向先(赴任地での現地事務所等)において二重の雇用関係が生じている赴任形態です。
この出向期間中については労働契約上の権利義務関係のうち、「就労に関する権利義務は出向先」に、「身分の得喪に関することは出向元に残る」ものと考えられています。
就労に関する権利義務とは、労働時間や休日といったことになりますが、つまり海外赴任者の場合には労働時間、休日、休憩等は赴任地の定めに従ってもらうのが一般的です。
一方で、従業員としての身分の喪失にかかわる懲戒や休職、また身分の変更を伴う人事異動は日本本社が行うことが一般的です。
社会保険
海外赴任者の社会保険などがどうなるのかというのも気になるところですが、通常出向元(日本)から給与の一部でも支払われていれば日本の社会保険の加入は継続できます。
一方で、赴任地においても外国人の加入が必要な国の場合には海外赴任者は加入が必要となります。
つまり、日本と赴任地において二重に社会保険の加入が必要となります。ただし、社会保障協定という国と国の社会保障の関する協定が国家間で結ばれている場合で、当該海外赴任者の赴任期間が5年を超えない場合には日本の社会保険のみ加入することが認められています。
社会保障協定は、現在EU諸国中心に21か国と署名済となっていますが、海外進出先がこの社会保障協定の締結国か否かで取り扱いが変わりますので進出の際にはこの点も注意が必要です。
労災
通常日本で勤務しているときに労働時間中に病気や怪我をした場合等は労災保険法(労働者災害補償保険法)によって国の給付が受けられる制度があります。しかし、この労災保険法は日本国内においてのみ効力がある法律のため、海外赴任者については、基本的に適用されません。
一方で、労災保険は、赴任地で外国人も通常適用対象となることが多いのですが、日本の労災保険とは補償内容が異なったり、そもそも補償が十分ではないため、こうした問題を解決するために海外赴任者には、通常の労災制度とは異なる「海外派遣者用の労災保険特別加入制度」が国で用意されています。
こちらの制度に加入するためには企業の管轄の労働基準監督署に申請する必要がありますので、海外赴任者が赴任するにあたっては申請を忘れずにしましょう。
税務
通常1年以上海外に赴任する場合、当該海外赴任者は日本の税法上の「非居住者」という分類となり、その非居住者に支払う給与については、たとえ日本本社が日本円で日本の給与口座に支払っていたとしても日本の税法上は「国外源泉所得」という分類となり日本では課税がされません。一方で赴任地において申告・納税が必要となりますので納税漏れがないように注意したいところです。
詳細は割愛しますが、海外進出企業については税務調査があった場合に、給与の支払い等をめぐって納税漏れや、海外赴任地への寄付金認定といったリスクがありますのでこちらも専門家等のアドバイスを受けながら注意して進める必要があります。
海外赴任者の給与設計とは?
海外赴任にあたっては、国内で勤務していた時の給与の考え方とは大きく異なります。たとえば、日本だけでなく海外でも社会保険に加入しなければならない場合、それを海外赴任者に負担させるのは赴任者本人にとって大きな負担となります。
そのため、赴任地の社会保険料は会社が負担してあげるといった取り扱いをする企業が多くなっています。
また、赴任地での税負担が税率の問題等で国内勤務時よりも大きくなる場合、国内勤務者との公平性という意味では海外赴任者に全てその負担をさせるのかという論点もあります。
このように社会保険・税金の負担の問題は、給与設計においてまず考慮すべき事項となります。
加えてヨーロッパ諸国や北米等日本よりも物価が高い地域に赴任した場合にどこまで給与として補償してあげるかという論点もあります。
昨今大手企業をでは海外赴任者については「購買力補償方式」という方法が多く採用されており、日本勤務時でかかっていた生計費を赴任地においても補償してあげるというような考え方で給与を設計することが多くなっています。
しかし中小ベンチャー企業においては最低限の給与で赴任してもらうという場合も多く、会社のポリシーと密接に関係しているところですので慎重な検討が必要です。
ベンチャー・中小企業の海外進出には赴任者の適切な労務管理を!
いかがでしたでしょうか。海外進出にあたっては重要な労務管理ポイントがいくつもあります。
また決定した海外赴任者の諸ルールや、労務管理方法については国内勤務時の労働条件とは激変しますし、海外赴任者用規程への明記や、出向契約書の策定、海外赴任者用の労働条件通知書などが必要になります。
赴任地で海外赴任者が安心して業務に取り組むことができるような環境を作るためには、適切な労務管理は欠かせません。
一方で海外進出時の労務については自社だけでは対応が難しいことも多くなっています。海外進出時にはそれぞれの専門家に相談しながら進めていくことをお勧めいたします。
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この記事を書いた人
- 寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
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