副業に関する就業規則を作る際のポイントとは?法律上の注意点を社労士が解説
2020/10/1
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目次
副業関連の就業規則を作るには?副業に関する法律上の注意点をチェック
2019年4月の働き方改革法案施行からもう間もなくで1年がたちます。
副業・兼業を解禁する企業はますます多くなってきています。
日本を代表する企業である、みずほ銀行までも2019年10月から副業・兼業が解禁され、もはやベンチャー企業だけでなく大企業でも副業・兼業については一般的になってきつつあることがわかります。
こうした時流のなか、人事労務部門の方からも昨今副業・兼業についてのご相談は増えてきています。
今回は、この副業・兼業をめぐる現時点での労働法や実務を社会保険労務士の目線で解説いたします。
副業に関する現行の法律上の論点とは?人事労務部門も一度は目を通しておきたい副業・兼業の促進に関するガイドライン
2018年1月、厚生労働省により、副業・兼業について、企業や労働者が現行の法令のもとで留意すべき事項や現行の労働法上の論点をまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公表されたのはご存じでしょうか。
本ガイドラインには副業・兼業をめぐる現行の労働法制の論点がまとまっており、特に人事労務部門の担当者の方は一度は目を通しておくことをおすすめします。
このガイドラインに記載されている副業・兼業の主要論点は下記のようなものがあります。
- 労働時間の通算
- 労災保険の給付
- 社会保険・雇用保険の適用
- 健康管理措置・安全配慮義務
副業の法律上のポイント1:労働時間の通算
① 割増賃金
労働基準法では、労働時間は会社が異なっている場合でも通算すると規定されています。労働時間を通算した結果、1日8時間・週40時間の法定労働時間超を超えて労働させる場合には、副業先で発生した時間外労働について割増賃金を支払わなければならないとされています。
つまり、8時間本業先で勤務後に副業先で就労するといった場合、副業先で労働時間の最初から割増賃金の支給義務が発生してしまうことになります。
② 36協定上の問題
労働基準法では、労働時間は会社が異なっている場合でも通算すると規定されています。労働時間を通算した結果、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて労働させる場合には、副業先は36協定(時間外・休日労働の労使協定)を締結していないと労働基準法違反となってしまいます。
副業の法律上のポイント2:労災保険給付
労災について、本業先A社の社員がもし副業先のB社で勤務している最中にケガなどをした場合、労災保険の給付はB社で支払われている給与分のみが算定基礎とされるため非常に低額な休業給付となる可能性があります。A社とB社の給与を合算して補償されるわけではないことに注意が必要です。
しかしこちらの点は、2020年に国会に関連法の改正案の提出が予定されており、副業先の給与を合算した算定基礎で給付が受けられるようになる予定です。
副業の法律上のポイント3:社会保険・雇用保険の適用
厚生年金と健康保険については、原則週30時間以上働く方が適用対象となっています。
この適用要件は、勤務している事業所ごとに判断されます。つまり、複数の勤務先で働く方が短時間ずつ企業に雇用されている場合、いずれの事業所においても適用関係を満たさない可能性がでてきます。こうした方々には社会保険の適用がなされない可能性があります。
雇用保険については、週20時間以上働く方が適用対象となっています。
この適用要件は、勤務している事業所ごとに判断されます。つまり、複数の勤務先で働く方が短時間ずつ企業に雇用される場合、いずれの事業所においても適用関係を満たさない可能性がでてきます、そこでいずれの企業でも雇用保険に入れないという可能性があります。
副業の法律上のポイント4:健康管理措置・安全配慮義務
会社には、労働契約法という法律によって従業員が生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするという安全配慮義務があります。社員が副業をしている結果として過労状態となっている場合において、本業先、副業先双方においてどのように安全配慮義務を履行していくのかは難しいところでありますが、企業は社員が副業している場合には、過労などに配慮するという義務があることに留意が必要です。
副業・兼業に関わる法律の今後の方向性
前述したとおり、副業・兼業の論点はいまだ多く課題が多くなっています。
ただ、この現行の労働法の課題を解決すべく、 「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」が政府によって開催されました。これを受けて2019年8月に「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会 報告書」が公表され、今後の政府方針がまとめられています。
副業関連の法律の今後1:労働時間の通算
こちらは、下記の選択肢が提案されています。
① 労働者の自己申告を前提に、通算して管理することが容易となる方法を設けること
(例:日々ではなく、月単位などの長い期間で、副業・兼業の上限時間を設定し、各事業主の下での労働時間をあらかじめ設定した時間内で収めること。)
② 事業主ごとに上限規制を適用するとともに、適切な健康確保措置を講ずることとすること
副業関連の法律の今後2:割増賃金
こちらは、下記の選択肢が提案されています。
① 労働者の自己申告を前提に、通算して割増賃金を支払いやすく、かつ時間外労働の抑制効果も期待できる方法を設けること
(例:使用者の予見可能性のある他の事業主の下での週や月単位などの所定労働時間のみ通算して、割増賃金の支払いを義務付けること)
② 各事業主の下で法定労働時間を超えた場合のみ割増賃金の支払いを義務付けること
副業関連の法律の今後3:健康管理措置
こちらは、下記の選択肢が提案されています。
①-1 事業者は、副業・兼業をしている労働者について、自己申告により 把握し、通算した労働時間の状況などを勘案し、当該労働者との面談、労働時間の短縮その他の健康を確保するための措置を講ずるように配慮しなければならないこととすること(公法上の責務)
①-2 事業者は、副業・兼業をしている労働者の自己申告により把握し、 通算した労働時間の状況について、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えている時間が1か月当たり80時間を超えている場合は、労働時間の短縮措置等を講ずるほか、自らの事業場における措置のみで対応が困難な場合は、当該労働者に対して、副業・兼業先との相談その他の適切な措置 を求めることを義務付けること。また、当該労働者の申出を前提に医師の 面接指導その他の適切な措置も講ずること。
② 通算した労働時間の状況の把握はせず、労働者が副業・兼業を行ってい る旨の自己申告を行った場合に、長時間労働による医師の面接指導、ストレスチェック制度等の現行の健康確保措置の枠組みの中に何らかの形で組み込むこと。
このような方向性が提示されているものの、まだ選択肢が提示されている段階です。
どのようになるかは結論としてまだまだ未定なことが多く今後の動きにも注目が必要です。
副業関連の就業規則を作るには?人事労務の現時点での制度導入はどう検討したらいい?
このようなまだまだ未定なことが多い段階で、副業・兼業を考えている企業はどのような点に留意して制度を導入していけばいいのでしょうか。
筆者としては下記のような論点をまずは考えていくと良いと考えています。
①そもそもマルチプル雇用を認めるのかを検討しよう
果たして雇用形態が複数になる副業を認めるのか?は大きな論点となります。
少なくとも現時点では、雇用形態が複数となる副業は上述の労働法の未解決な課題が多いという理由から、副業を全面的に解禁するのか柔軟かつ慎重に検討する必要があるでしょう。
②「判例上も禁止が認められる副業」を禁止しよう
副業解禁とはいえ、会社の利益を損なうおそれのある副業については禁止とする旨を就業規則にも定めましょう!
# | 禁止すべき副業 詳細 | |
1 | 職務専念義務に反するような副業 | |
2 | 企業秘密が漏洩するような副業 | |
3 | 公序良俗に反するような副業 | |
4 | 競業に該当する副業 |
③誓約書・申請書はしっかり策定しよう
現時点においても、競業などに該当しないかの確認や、副業を行う場合に従業員が守るべき事項への誓約をさせるため、副業は事前申請・許可制とすることが適切です。
# | 申請書に盛り込むべきポイント | |
1 | 副業申請の有効期間を設ける (1年など) | |
2 | 副業の事業内容を記載させ競業に該当しないか確認 | |
3 | 雇用形態か非雇用形態かの確認 | |
4 | 月間労働時間程度の把握は行う |
特に、誓約書については機密保持・職務専念義務・競業避止といったことを守らせる意識づけや、実際の訴訟等への備えとしても有効と考えます。絶対に取得しましょう。
# | 誓約書に盛り込むべきポイント | |
1 | 労務提供上の支障がないことを約束させる | |
2 | 機密保持に反することがないよう約束させる | |
3 | 競業とならないことを約束させる | |
4 | 健康保持、自己管理に努めることを約束させる | |
5 | 申請内容変更時、1年などの一定期間ごとに随時提出させる | |
6 | 取り消す場合があることへの了解を得る | |
7 | 損害賠償の対象となる可能性を明記 |
法律上のポイントを押さえて、副業に関する就業規則を作ろう!
いかがでしたでしょうか。副業元年と呼ばれた2018年から2年がたちましたが、副業・兼業の導入の流れはますます高まっています。
現行の労働法上留意しなければならない点を念頭に、自社の副業のルールを策定していきましょう。
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この記事を書いた人
- 寺島 有紀
寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。
一橋大学商学部 卒業。
新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。
現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。
2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。
寺島戦略社会保険労務士事務所HP: https://www.terashima-sr.com/
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