CARRY ME代表 大澤亮 特集

【続編】土屋鞄の元役員が明かす、土屋鞄が挑んだ「4つの非常識」な取り組み

大澤亮

土屋鞄製造所は、本革を使ったランドセルやバッグのECや店舗で、ここ10年強で急速に成長し、また有名になった企業である。大澤は運よく、2007年に取締役として参画させて頂き、当時、社員数20名程度、売上20億円規模だった同社を、75名程度、50億円程度の規模まで成長したタイミング(2009年)まで約2年半ご一緒させて頂いたので、今回こちらにて土屋鞄の記事(2回目)を執筆させていただく。

土屋鞄製造所は、大澤が知る限り、

・日本で、はじめてEC(ネットショップ)として、「ブランディング」に成功し、
・1店舗目が足立区の最寄り駅から徒歩圏外という立地度外視でも成功し、
・ランドセルの価格は10万円前後、というこれも常識から逸脱した価格帯ではじめて成功した企業

いわばそれまでのビジネスの「常識から外れた」の戦略で成功している企業である。

大澤自身の経験から、「土屋鞄の元役員が語る土屋鞄が覆した4つの非常識な取り組み」と「その具体的な手法」を、初公開しようと思う。

※なお、本記事は、2017年9月に執筆した以下の記事で一定の反響があり、こちらの続編的な内容になっているので、以下をご覧頂いてない方は先にご覧いただくことをお勧めします。
土屋鞄の元役員がはじめて語る土屋鞄の売上、利益が急成長した本当の理由

小売りビジネスの常識を壊す!小売りは立地が大切「ではない!」

【続編】土屋鞄の元役員が明かす、土屋鞄が挑んだ「4つの非常識」な取り組み

通常は、小売ビジネスでは立地が大切、特にファッション関連ではセレクトショップなどを見ても駅近の立地が殆どである。

しかし、土屋鞄では、1店舗目は足立区の最寄り駅から徒歩「圏外」の地域。(徒歩では1時間以上!)

移転した今でも、舎人ライナーで西新井大師西駅、というお世辞にも利便性の高い立地とは言えない駅が最寄り駅である。

2店舗目も鎌倉駅から徒歩10分程度のところにあり、その他店舗を見てみても一部の丸ビル内の店舗などを除くとほぼ全てが「立地条件が悪い」場所にあるのである。

小売りビジネスは、これまでは「利便性の良い立地」に、「プロモーション(特に雑誌への広告)」を仕掛けて、集客やブランディング図っていくのが定石だった。

しかし、土屋鞄は、利便性の立地に店舗を構える目的は「集客」と「ブランディング」のはずであり、Web(EC)で集客とブランディングができるのであれば、利便性の良い立地は必要ない」と考えた。

つまりリソース(予算と人)の配分を、「好立地」から「ブランディングのための違うもの」に変えたのである。

具体的には、ブランディングのためには、好立地に高コストをかけるよりも、ECやWeb集客、特にクリエイティブ、そのための人的リソースに予算を配分したほうが売上・利益を見込める、かつ、ブランディングも可能と考えたのである。

そして、「立地が悪くても足を運んできてくれる顧客層は一定以上いるはずで、そうした顧客こそ重要なファン層だ」と考えていたのである。

その考えは徹底されており、好立地でかつブランディングも図れるような百貨店への出店も全て断り続けてきた。また、セレクトショップなどへの「卸」も一切していない。

※大澤が在籍していたころは、まだ丸ビルへの出店前で、それまでは100%駅から遠い場所・・・白金店(広尾駅から徒歩12分)、中目黒店(ランドセル専門店 中目黒駅から徒歩12分、池尻大橋駅から徒歩9分)だった。

好立地への出店、(卸をすることによる)中間マージンなど、そこに予算を配分するのであれば、「Webでの自社集客に」プラス「駅から遠い自社店舗」で十分であった。

価格の常識を覆す!1万円程度が常識だったランドセルを、10万円で販売!

ひと昔前までは、ランドセルは1万円から5万円程度が当たり前だった。それを土屋鞄では10万円前後で販売し、しかも毎年売上を継続的に成長させ、売り切れ続出させている。 

すぐに売り切れてしまうので、土屋鞄のみならず、他のブランドも含め、ランドセルの購入時期も以前より早まらせている、という一種の社会現象まで巻き起こしている。

高くしても売れた理由は、単純に、本革のランドセルを創って、その分価格にオンさせたら、たまたま売れた、という話ではない。

土屋鞄は子供が選ぶ子供のためのランドセル、というそれまでの視点を変え、「大人が選ぶ子供のためのランドセル」、という新しい市場を見つけたからだ。

もっというと、実際に購入する個人は、両親だけではなく祖父母も対象となる。そうすると、財布のひもがかなり緩むことは想像に難しくない。

それは、ランドセルは子供のためなんだから子供が選ぶのが当然、という常識があったからだ。ところが、土屋鞄は「大人が選ぶ子供のためのランドセル」という新しい市場を見つけて、そのために本革使用で、高級価格帯という新しい市場を創り出した。

市場を選ぶ際は、特にBtoCでは「財布のひもの緩みやすさ」×「財布の大きさ」という基準で選ぶことも合理的であり、この視点からも祖父母にも注目したのは理に適っている。

ちなみに、8月になると、土屋鞄のWeb広告予算が増えるのだが、これは何故だか想像つくだろうか? 一般的には「ニッパチの法則」というものがあり、2月、8月は企業の売上が落ちる時期であるが・・・

正解は、8月はお盆の時期で、家族で帰省するので、お父さんお母さんがお爺ちゃんお祖母ちゃんに、ランドセルの購入をおねだりするのに最適なタイミングだから、である。

お父さんお母さんが、実家に帰省したタイミングで「子供のランドセルは革の良いものを買いたい」と訴えて、お爺ちゃんお祖母ちゃんの財布を緩めさせるのだ。

孫を連れてっての、孫の顔を見せながらの「おねだり」なので効果てきめんだ(笑)ちょうどそうしたタイミングを見計らっての広告で、そうするとスマホやタブレットなどでもお爺ちゃんお祖母ちゃんに見せやすい(おねだりしやすい)のである。

こうした「具体的な顧客層への訴求タイミングと訴求ポイント」をどうやって見つけるか、は非常に重要なテーマであり、現時点では「カスタマージャーニー マップ」を活用することが最も有効であると考えている。

ランドセルという縮小市場でも、積極投資し、毎年売上・利益も成長!

土屋鞄ランドセル

ランドセルを10万円程度、と、既存の価格の常識を覆しただけではない。

ランドセルは、少子化の傾向を受けて、一般的には「縮小市場」とみられ、競合が強化していなかった市場だったのだ。 

その中で、土屋鞄は製造強化(職人採用等)、カタログやWebなどの販促強化、ランドセル専門店開店などの積極的な投資により、毎年売上・利益も成長を続けている。「縮小市場の中でも投資し継続成長させている」という点では常識を覆している。

「縮小しているランドセル市場でも営業活動を行う」ことは、土屋鞄にとってはビジネス上、3つの意味がある。

1つ目は、上記の通り、「大人が選ぶ子供のためのランドセル」という新しい市場の発見により、純粋に売上と利益を確保し継続成長できる、というビジネス上の意味である。
2つ目は、ブランディング上の視点で、「日本製で、職人がかなりの部分手作りで製造しているランドセルメーカーから生まれた革製品のブランド」というブランディングの位置づけである。

そして3つ目が極めて重要なのだが、ランドセルという市場は土屋鞄にとっては、売上・利益確保だけでなく、一般鞄・革製品のための「見込み客を確保し」、更に「口コミで広げる」という位置づけにもなっている。

土屋鞄の場合は、ランドセルで一定層の顧客を確保し、その顧客に対し、以下に記載するようなクリエイティブ完成度の高いHTMLメルマガやカタログなどの販促により、「一般鞄や財布などの、一般のレザーアイテム」の購入に結び付けている。

ビジネス的には、ランドセルの単品販売にとどまらず、その後も他の商品を販売することにより、LTV(=Live Time Value 生涯価値)をあげているのである。

ここにLTVを設定しているので、高いLTVを見込めることから「投資もしやすい」のである。ランドセルだけでなく、一般革製品の購入もある程度見込めるという意味での、高いLTVが見込めるのであれば、1顧客獲得あたりの単価もあげやすい、というわけだ。

更に、ランドセルは口コミで広めやすい商材といえる。なぜなら、

・ほぼ100%の両親または祖父母は、子供が小学校に上がる前に必ず購入し、
・6年間使うもので一定金額以上するので周りに相談しやすい商材で、
・更に母親層は小学生に子供があがるタイミングでは「ママ友」層があるので伝染しやすい(口コミされやすい)、

という特徴を持つからだ。

もっというと、子供が持つものなので、今の時代「下手なものを持たせると子供がいじめに合うかもしれない」というリスク回避商材でもあるので、それだけ「周りをみて無難な良いモノを選びたい」というニーズは強いとも言える。

鞄・バッグ市場が土屋鞄のビジネスの主戦場だと考えると、ランドセル市場はそのための「見込み客獲得」のための市場であり、かつ口コミで広めてくれる販促にもなっているのである。

縮小市場といっても、切り口によっては新しい市場を創造でき拡大市場にすることもできるし、また、その市場をフックにして自社の違うより大きな市場で効率よく拡大できる、という事例である。

「ブランディングはWebでは構築できない」は嘘!ECでブランディングに成功した日本初の!?事例

【続編】土屋鞄の元役員が明かす、土屋鞄が挑んだ「4つの非常識」な取り組み

土屋鞄は「ECでブランディングに成功した」日本初の例ではないか、と思っている。

上記の通り、小売り店舗は持つものの立地条件は悪く、TV CMなどのプロモーションも実施せず、実はファッション雑誌への広告(記事広告含む))も一切やっていなかった。

それでは、土屋鞄はどうやって、ECでブランディングに成功したのか。次にその理由を紹介する。

土屋鞄がECでブランディングできた理由、具体的手法

土屋鞄がECでブランディングできた理由、具体的手法を以下4つに取りまとめてみた。

(ア)「土屋鞄といえば〇〇」という定番商品(カテゴリー)を創ったこと

トーンオイルヌメ土屋鞄

土屋鞄には「オイルヌメ」という商品カテゴリーがある。古くからの土屋鞄のファンであれば、ご存知であることは間違いないだろう。

この定番商品を土屋鞄のファンであれば興味を持つであろう「最も土屋鞄らしい」定番バッグとして位置づけ、カタログ、自社メディア(Webサイト)、広告などでも一貫してこの商品カテゴリーに集中して露出させ続けてきた。

そうすることで、(当時)少ない予算の中でも効率的に露出を図り、ファン層にリーチすることができた。

定番商品を創る際は、以下の3つの条件を満たしていることが必要だと考えている。

・他には殆どないオリジナルな商品であること、アイコニックなデザインであること。
・実際に製造が可能で、一定以上の利益率を保てること
・自社が想定している顧客層にニーズがあること (売れないと意味がない)

ブランドでいえば、ボッテガヴェネタの、革紐をメッシュの様に編みこみしている商品(「イントレチャート」と言います)は有名である。

また、こうした「自社ならでは」の定番商品は1つのみならず、数年経過すれば2つ目、3つ目の定番商品を創っていくことも効果的だ。土屋鞄では、おそらく「大人のランドセル」を第2もしくは第3の定番商品としているのではないかと想像する。

(イ)ストーリー性・企画

ストーリー性・企画

土屋鞄というブランド/ショップ/会社のストーリーはもちろん、各商品カテゴリー(上記のオイルヌメなど)や、働く個人(職人さん)にフォーカスしたストーリーなど、各要素にストーリー性をもたせた。

それを、細部にこだわった「カタログ」、1~2週間以上かけて創り込む「メルマガ」、当時は概念もなかった「オウンドメディア」といった販促ツール、というよりも「ストーリー性のある読み物」で発信し続けた。

例えば、土屋鞄というブランドであれば、「職人のこだわり」や「ランドセルの職人が本革にこだわった歴史あるバッグブランド」、「日本の匠の技」といった複数のストーリーがあるので、それらに様々な企画に絡ませて各媒体で発信し続けるのである。

(ウ)クリエイティブへの徹底したこだわりとリソース配分

クリエイティブに関しては前回記述したので割愛するが、クリエイティブ関連の部署(商品デザインやWeb制作・カタログ製作)へのリソースに相当集中させていたことは再掲する。

クリエイティブについては、「画像がきれい」といったレベルではなく、プロダクトデザイン(鞄や財布など商品)、1つ1つに込められた言葉・文章(いわゆるコピー)、実店舗での内装・什器、広告・プロモーションなど、トータルにおいてのクリエイティブである。

また、そこの統一を図るため、私が在籍していた期間までは殆ど外注せず、カタログ製作なども含め全て社内のクリエイティブチームが手掛けていた。

(エ)露出

上記の3点を備えたうえで、露出を増やす。

土屋鞄では自社のブランディングの観点から、ファッション誌等への広告は一切掲載せず、ほぼWeb広告のみで露出を図ってきた。

Web広告とは、楽天(当時は出店していたので)への広告、リスティング広告、SNS広告なども含む。露出を増やす際には、当然、上記の「定番商品」を中心に増やしていく。そうすることで広告予算も分散されずに効率的に土屋鞄らしさを訴求できていく。

常識を逸脱した非常識な戦略・アイデアを思いつくために

土屋鞄のように常識を逸脱した非常識な戦略・アイデアを思いつくためには「既存の業界ではビジネスではこうしている」という習慣や常識は捨てて、
「それっと本当なのか?」
「なんでだろう?」
と疑い、考える癖を身に着けることが大切だ。

言うまでもないが、ここでは学歴や有名企業で働いてきた、といったブランドは全く通用しない。

とはいえ、世の中の常識を全て疑っていては霧がない。常識を疑うにも「筋の良い」悪いがある。筋の良い「常識の疑い方」を身に着けるには、(元も子もないが)「直感」が大切である。

例えば経営者であれば、現場に出向いて自社の顧客が、どういうシチュエーションで、何を、どうやって購入しているのか、を観察してみる。

(まさに、土屋鞄が、「自社のランドセルを、両親が祖父母におねだりして買ってもらっている」というシチュエーションに気づき、お盆の時期のプロモーション施策に結び付けるには、こうした現場の観察が必須だ)

とはいえ、「いますぐ、経営課題を解決するために、具体的なアイデアが欲しいんだ!」」と思う経営者の方も少なくないだろう。そうした場合は、既に具体的なアイデアを持っている、あるいは事業立ち上げの勘所を備えている人材を外部から引っ張ってくることが有効だ。

各分野のプロフェッショナル人材をプロジェクト単位で活用する」という手法が、経営の課題解決にも、自社としての学びにも今の時代、可能である。

自社サービスの紹介となって恐縮だが、弊社CARRY MEは、正社員で採用できないレベルの優秀なプロ人材が集まるプラットフォームになっている。Webマーケティングのプロを中心に、事業開発のプロ、広報PRのプロ、法人営業のプロなど「週2~3回出社可能な」個人事業主が中心だ。

プロのフリーランス、子育て中のキャリアウーマン、若手起業家という3タイプの属性が3,300人登録(2018年12月時点)しており、事業開発であれば起業家タイプを登用することをお勧めしたい。

CARRY MEも事業立ち上げからこのような各分野のプロ人材を活用し、2年間で正社員ゼロで黒字化を実現した。

詳しい内容はこちら:
赤字・借金状態から1.5年で脱却!CARRY MEが創業2年で黒字化し、粗利益10倍にできた理由

以下、いずれかにあてはまる場合はぜひご連絡ください。
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・具体的にプロ人材の採用や他社の活用事例(450社にご利用頂いています)などについて知りたい
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 (EC、新規事業立ち上げ、優秀な人材の採用方法、ブランディングなどのテーマでお話させて頂くことがあります)
info@carryme.jp

この記事を書いた人

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大澤 亮

5度の事業立ち上げを経験し、過去に2度事業売却したシリアルアントレプレナー。
1996年に新卒で三菱商事株式会社に入社、タンザニア駐在経験(ODA担当)を経て、帰国。同社退職後、1999年に慶應義塾大学大学院(経営管理研究科修士課程)に入学と同時に起業、2度売却。(日本初の比較サイトを創業し米国企業に売却、EC事業を設立しサイバーエージェント社に売却)

その後、株式会社ドリームインキュベータに入社し、大手企業とベンチャー企業両方の経営コンサルティング、ベンチャー企業投資も担当。同社退職後、土屋鞄製造所に取締役兼C.O.O.として入社し、2年で売上20億円から45億円、経常利益も2倍以上にして退職。その間、人事担当役員として数百人を面接。

2009年 株式会社Piece to Peaceを創業、2013年にスキルのマッチングプラットフォームshAIR(シェア)を創業し、会員1万人に。2015年には、週2、3回で業務委託契約で働くプロ人材(助っ人プロ)と、人手不足の企業の仲介サービス「CARRY ME」のコンセプトを立ち上げ、1年で黒字化達成。300人以上の経営者や人事担当者から採用の相談にも応じている。
著書 「世界をよくする仕事で稼ぐ」 (プレジデント社より出版)

アカデミーヒルズ(六本木)等での講演多数。

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