働き方改革専門家

ティール組織と労務管理構築

今年になってからスタートアップ企業・ベンチャー企業の人事担当者様や経営者様から「ティール組織」「ホラクラシー型組織」などのワードを盛んに耳にするようになりました。

ティール組織とは、アメリカで数年前に発売された「Reinventing Organization」という書籍が、2018年に日本語版として「ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」として発売され一躍日本でも話題となったものです。

ティール組織・ホラクラシー型組織とは?

ティール組織とは、これまで私たちが働く日本企業に当然にあった階層的な上下関係や売上目標や予算設定をなくし、意思決定の権限・責任を一部の経営陣に限るのではなく個々の組織メンバーに分けることで、それぞれその組織で働くメンバーがモチベーションを高く持ちながら主体的・自律的に仕事をするようなセルフマネジメント型組織です。

一方でホラクラシー型組織とは、ティール組織の中の具体的な一つの形態です。
具体的には、社内に役職や階級がなく、意思決定権も組織内で分散され、責任や権限もそれぞれの部署や個々の社員に分散されるようなフラットな組織を指します。
このような組織形態によってそれぞれの社員がより大きな裁量をもち、自主的に仕事に取り組むことが可能となるとされています。

ティール組織・ホラクラシー型組織をイメージが湧きやすくするためにざっくり定義するならば「がちがちに規則で固めて、上司と部下の上下関係はしっかり守って、組織の売り上げ目標に向かって指揮命令下のもと働いてもらう」ような組織とは真逆なわけです。
すべてこういうものをとっぱらったフラットな組織を目指すわけです。

このようなティール組織・ホラクラシー型組織の実現を実際に目指すというベンチャー企業の経営者様もたくさんいますし、顧問先でも数年前からこのような組織形態を目標として導入を進めてきたという企業もあります。

とにかくベンチャー界隈ではとても注目されている組織形態です。

ティール組織・ホラクラシー型組織と労務制度構築

前述したとおり、ティール組織・ホラクラシー型組織を目指す企業にとって日々の細かな規則などで社員を縛るというようなことは目指す姿とは異なります。そのため、旧来型の日本企業の労務管理はその目指す姿とは真逆にうつります。

自社がホラクラシー型組織を実現しているとうたう企業のなかには「うちには就業規則はありません!」というような採用HPを見ることもあります。

しかし、水を差すようなことを言うようですが・・・就業規則の作成というのは労働基準法上、常時10人以上労働者を使用する組織においては義務化されていますので就業規則自体の策定義務自体はコンプライアンス上守る必要はありますので注意が必要です。

ティール組織・ホラクラシー型組織を実現したい企業様を目の前にして、どう労務管理制度を構築していくとその理念に合致するのか?どう就業規則に定めていくのかというのは私も日々考えているところです。

労働時間制度

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まずは労働時間制度を工夫するということになるかと考えます。

・専門業務型・企画業務型裁量労働制
・フレックスタイム制度

「朝は絶対9時半には来て、帰りは18時半までは仕事が終わっていてもいてね」というような固定的な労働時間ではなく、それぞれの社員が自律的に動くということを念頭に入れた場合には、このような柔軟な労働時間制度を導入することが組織の理念とは合致しているように思います。

就業場所

また、「絶対に会社に出社しなければならない」というのも社員の自律的な行動を阻害してしまう要因になりえるかもしれず、ティール組織・ホラクラシー型組織を目指す企業では在宅勤務・テレワークがマッチしていることが多いように感じています。

業務上の情報管理等の問題がクリアにする必要はありますが、就業場所を問わないというのもより社員が自律的にモチベーションを高めて働くことを可能にすることになります。

服務規律

通常、我々社会保険労務士が就業規則策定を行うとき、就業規則というのは「会社を守るルール」という側面も強いですから、従業員に守って欲しい服務規律や懲戒事由、懲戒のルールなどを非常に細かく設計します。

服務規律だけで50項目などを盛り込むというようなことは特別なことではありません。
しかし、ホラクラシー型組織をうたう企業の場合あまりにも細かいことを縛る規則はふさわしくないでしょう。

一例にはなりますが、よくある服務規律の中には

「・会社の経営方針を尊重し、上長の職務上の指示・命令・注意に従うこと」
のような文言がありますが、これもティール組織・ホラクラシー型組織では文言上はふさわしくなく、

「・会社の経営理念への理解・共感に基づき自律的にその経営理念の実現に向かって動くこと」
のような修正が必要になるでしょう。

また、これもよくある服務規律ですが、

「・服装は華美にわたらぬようにすること」
「・就業中の飲食は慎むこと」

のような文言も、ティール組織・ホラクラシー型組織ではこんなことまで規則を設けるのは意図にそぐわないものと考えます。

さらに、自律的・セルフマネジメント型の社員ということを前提にすればおそらくこれまで多くの企業が禁じてきた「二重就業の禁止」などはそういった優秀な社員のモチベーションを阻害する要因になるため、いわゆる社員の副業や社外での講演・執筆を認めるというようなことが相応しいように考えています。

「会社が命じる」「上長の許可」問題

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またこれは一般的な企業の就業規則では「会社が●●を命じた場合」という文言が山ほど出てきます。または「上長の許可を得た場合」「上長に事前に連絡をした上で~」のような文言も同じです。

ティール組織・ホラクラシー型組織では役職や階級がないわけですのでこれらの指揮命令系統を定めるのも実態にそぐわないことになります。

ティール組織・ホラクラシー型組織では「命令」というよりも「リクエスト」ベースで職務を進めるため、それを前提に規定していく必要があります。

とはいえ、それぞれの職務がもつ権限は依然として残るわけなので場合によっては「人事部の許可を得て」のような書き方を残すのもおかしくないようには思いますし、絶対に企業秩序を維持する上で必要な規則は存在し続けています。

例えば、企業内のハラスメントの防止、暴力団関係者とのかかわりの禁止、営業機密漏洩の防止等、絶対に会社として規律すべきところは残るわけですので労務管理制度を構築する場合には、最低限のルールは必要です。

また、ティール組織・ホラクラシー型組織が根付きやすく、実際に制度導入を目指すことが多いスタートアップ・ベンチャー企業ですが、スタートアップ企業はまた、優秀な人材の確保が難しいという面もあります。

そうした場合に、企業を守る就業規則をあまりに緩いものにしておくと労務トラブルが発生した場合に企業が著しく不利になってしまうことがあります。

そのため、「就業規則を策定しない」というようなことは論外ですが、あまりルールを設けない就業規則であっても労務リスク防衛の観点から必要な規定は盛り込んだ就業規則を作る必要があります。

ティール組織・ホラクラシー型組織では新しい視点の労務管理構築が必要

いかがでしたでしょうか。ティール組織・ホラクラシー型組織においては、労務管理構築の際に通常の組織形態とは異なる視点で取り組む必要があるところは多くありますが、一方で既存の企業が規定しているようなルールも同様に定める必要があります。

就業規則の策定も、国のテンプレートを使うことでは目指す組織像が実現できないため
、ティール組織・ホラクラシー型組織を構築したい場合には専門家に相談の上制度を設計していきましょう。

この記事を書いた人

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寺島 有紀

寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士。 一橋大学商学部 卒業。 新卒で楽天株式会社に入社後、社内規程策定、国内・海外子会社等へのローカライズ・適用などの内部統制業務や社内コンプライアンス教育等に従事。在職中に社会保険労務士国家試験に合格後、社会保険労務士事務所に勤務し、ベンチャー・中小企業から一部上場企業まで国内労働法改正対応や海外進出企業の労務アドバイザリー等に従事。 現在は、社会保険労務士としてベンチャー企業のIPO労務コンプライアンス対応から企業の海外進出労務体制構築等、国内・海外両面から幅広く人事労務コンサルティングを行っている。 2019年4月に、「これだけは知っておきたい! スタートアップ・ベンチャー企業の労務管理――初めての従業員雇用からIPO準備期の労務コンプライアンスまで この一冊でやさしく理解できる!」を上梓。 寺島戦略社会保険労務士事務所 https://www.terashima-sr.com/

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