起業・パラレルキャリア物語

アクアビット航海記「ある起業物語」 vol.35~正社員として得た経験

みなさん、こんにちは。合同会社アクアビットの長井と申します。昨年の8月からCARRY MEさんに連載している「アクアビット航海記『ある起業物語』」の第35回です。今回は、正社員としてスカパーカスタマーセンターその他で得た経験について語ります。

正社員でなければ学べなかったこと

運用サポートチームに引き上げられ、パソナソフトバンクの正社員にも登用してもらった私。正社員になってしばらくして後、現場(スカパーカスタマーセンター)での肩書は集計チームマネージャーと変わりました。

正社員になってからは、マネージャーとして現場の集計業務を見つつ、派遣元であるパソナソフトバンクの業務にも関わっていきます。立場が変わるとやるべきことも増える。そのあたりのいきさつは連載29回ですこし触れています。

今回は、その部分をもう少し突っ込んで書いてみたいと思います。

正社員になったことで私に課せられた新たな任務。それは大きく分けて4つあります。そのどれもが私にとって初めてのことばかり。いま思えば、これらの任務は後年の私が”起業”するにあたって修めておいてよかったと思います。

1つ目は、日々のオペレーター・スーパーバイザーさんの出退勤管理システムの保守。
2つ目は、お客様(スカパー)への月次の請求書発行。
3つ目は、カスタマーセンターの外に出て、作業や商談で別のお客様を訪問。
4つ目は、現場のプライバシーマーク取得や、センター移動の担当としての作業。

システムの保守を経験する

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まず1つ目のシステム保守。
私が「登録チーム」や「集計チーム」で作業するために集計ツールをマクロで作ったことは書きました。とはいえ、それはあくまでも自分のために使うもの。バグを検知するのも自分ならば、それを修正するのも自分。せいぜい、「登録チーム」の同僚のスーパーバイザーからの要望やバグ報告に対応すればよいだけ。

ところが、私が保守することになった出退勤管理システムはそうはいきません。使用者は、二桁違います。なにせすべてのオペレーターさんとスーパーバイザーさんが何百人と朝夕打刻するシステムですから。データを集計する事務スタッフのMさんやSさんも使います。もはや、私だけが使うシステムではないのです。トラブルがあると端末の前にみなさんが列をなします。

そのシステムは、登録証代わりのカードに印刷されたバーコードを端末のバーコードリーダーで読み取ります。アクセスで作られたそのシステムは、読み取られたバーコードを元に対象者と打刻時刻を内部テーブルに保存します。そのデータを、パソナソフトバンクの事務スタッフの方がフロッピーディスクに保存し、別フロアの分析用のアクセスに取り込みます。

ところが、アクセスの場合は、最適化をしてあげないとテータ容量が肥大するのです。このシステムは最適化の考慮がなく、それゆえ時々止まりました。止まると打刻ができないので長蛇の列ができ、私の元にアラートを告げる使者がやってくるのです。後日、最適化の自動化は実装しました。

ですが、このシステムの保守は他にもやるべきことがあります。たとえば、アクセス自体のバージョンアップや、リースパソコンの切り替え。そのたびに、私はアクセスのあれこれを調べた上で臨んでいました。私はこのシステムの開発には携わっていません。そもそも私はこの開発者に会ったこともなかったので。しかも仕様書もマニュアルもありません。保守担当になったとはいえすべてが手探りでした。

保守担当が担う責任。それは私にとって初めて担うものでした。いまでこそ、さまざまなシステムの保守を行なっています。が、この時が私にとって初めての保守経験だったと思います。まさに技術者の原点となる経験だったかもしれません。この出退勤システムはアクセスの仕組みを学ぶ良い教材でしたし、保守業務のコツのようなものを学べたのもこのシステムからでした。多分、差支えはないはずなのでシステムの名前を書いてしまいます。それはMareと名付けられていました。ありがとうMare。なんの略かは忘れましたが。

請求業務の厳しさを経験する

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ついで2つ目の、お客様への請求書を作る任務です。パソナソフトバンクからは、何百人ものオペレーターさん、スーパーバイザーさん、マネージャーさんがスカパーカスタマーセンターに派遣されていました。当然、毎月の労働に対する請求をスカパーへ出さねばなりません。私は、この請求書の作成担当に任命されました。上に挙げたMareで集計したオペレーターさん、スーパーバイザーさんの勤務時間。さらに別報告で集計されたマネージャーさんの勤務時間。これらを毎月の第何営業日までだったかは忘れましたが、スカパーのご担当者に請求書として提出します。

この作業が大変でした。なにせ額が額です。毎月、その請求書に記載される額面は20代の私には到底届かない高みにありました。そして、請求書は業務ごとの案分をはじめ、特殊な計算式がてんこ盛り。毎月のように請求書のレイアウトは変わり、マクロによる自動化もままなりません。関数の位置がずれ、結果に矛盾を生じさせては、ご担当者さまのお叱りを受ける。そんな毎月でした。月末月初はこの作業に掛かりきりになっていました。

でも私は、この任務によってExcel関数をより効率的に使う術を身につけたように思います。そして、請求とはシビアな営みであり、間違うととんでもないことになる緊張感。請求とは厳密であり、1円たりともゆるがせられない。そんな認識を養いました。それは”起業”した、いまもなお私の中に生きつづけており、とても得がたい経験だったと思います(もっとも私の値段設定や財務管理はいまだに反省すべきことが多いのですが)。あまりにもやりとりが密だったせいか、スカパーのご担当者の方と年賀状をやりとりするまでになったのも懐かしい思い出です。

外のお客様への商談を経験する

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さらに3つ目は、外部への訪問です。パソナソフトバンクにとっては、大口とはいえスカパーだけがお客様ではありません。正社員に雇用した以上、私には他のお客様でも売上を立ててもらおうと期待するのも当然です。なので、私もスカパー以外のお客様を訪問することがちょくちょくありました。例えば、作業員として集計の仕組みを作るため客先に赴いたり、商談に同席するために外出したり。

商談への同席。私のそれまでの30年足らずの人生でも初めてのこと。パソナソフトバンクでは社員向け研修の一環として名刺の交換などのビジネスマナー研修がありました。私もその研修でノウハウを吸収しました。でも、研修では実際の商談をシミュレーションしてくれません。商談はいつだって本番です。ですから当然、私が単身で商談に派遣されることはありません。そもそも商談の進め方もわからず、何をどう準備すればよいのかも知りません。まず、私は商談への同行から始めました。商談の場に同席しても営業マンの横でコクコクとうなづいているさえない輩。それが私でした。どれもが不慣れ。何もかもが見習い。どの時間も勉強でした。現在の私が振り返っても商談中の私は挙動不審だったと思います。もしくは、堅く縮こまった貝のような。

でも、何度か商談に臨むうちに、言葉を挟むタイミングもつかめてきます。横に座っているだけなのも芸がないので。たとえ、最初はウナヅキマンでも、徐々に商談の空気感を体得していくのです。この時、商談の経験を踏めたことが”起業”した現在では糧となっています。そして、商談に臨める機会をもらえたこともパソナソフトバンクに就職してよかったことの一つです。

コンプライアンス順守の大変さを経験する

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最後に4つ目の任務では、コンプライアンスの意識を学びました。コンプライアンスなどと大仰な言葉を、現在の私は平気で口にします。でも当時の私はそんな言葉など知っているわけがありません。ましてや当時はY2K問題の記憶もまだ新しい頃。プライバシーを自衛する風潮もセキュリティを順守する意識も世の中には根付いていませんでした。そもそもSNSなどなかった時代です。アンチウィルスやファイアウォールのソフトウエアを入れ、怪しげなメールの添付ファイルは開かず、Windows Updateをきちんと実施していればノー・プロブレムの古き良き時代。

ところが、カスタマーセンターとは個人情報の宝庫です。ですから個人情報保護が至上の指針となるのは当然。上に書いたような普通の対策で済まないの当たり前です。きちんとした個人情報保護の対策をとっていますよ、と世の中に知らしめねばならなかったのです。そこでスカパーカスタマーセンターではセキュリティ認証を取得することにしたのでしょう。お客様に安心していただくためにも。その認証とはプライバシーマーク。ところがプライバシーマークを取得するのはそう簡単にはいきません。そのため、スカパーカスタマーセンターに参画していた各社ベンダーにも協力を仰ぎ、センターを挙げて取得へと進むことになったのです。パソナソフトバンクもベンダーの一社です。そして、社の担当者として私が参加することになりました。

言うまでもなく、当時の私にそんな知識もリードできる力量もありません。会議でもただ席に座っているだけでした。やることといえばスカパーの求める調査項目を埋めたり、各チームに調査を依頼したりするぐらい。でも、ここでプライバシーマーク取得のための実務を経験できたことは私にとってはまたとない財産となりました。なぜなら個人情報を保護することがどれほど大変で労力を要することかを身をもって知ることができたから。プライバシーマーク取得に向けてやらねばならないタスクはクリアデスクや施錠の励行だけではありません。書類の管理者やごみの捨て方、ごみを廃棄する方法やごみ廃棄業者の管理監督まで事細かく決めねばなりません。それほどまでに大変な作業をへて、ようやくセキュリティやプライバシーが保てるのです。

私はプライバシーマーク取得の担当になったことで、セキュリティ順守の意識が身につきました。これは大きかった。なぜなら後年、私が独立した後で何カ所もの開発センターを渡り歩く上で求められるコンプライアンス意識が身につけられたから。”起業”した現在もそう。むしろ、無意識のうちにコンプライアンスを意識できるぐらいでなければ。通常の業務が多すぎるのに、その度にコンプライアンスを意識しながら作業していたらとても無理です。コンプライアンス順守など呼吸をするかのように無意識にこなせないと。そのための「無意識の意識」を私はこの任務から会得しました。

もう一つ、私がベンダーの担当者として参加したことがあります。それはカスタマーセンターの移転・増床の作業です。この時もわたしはお座り担当でした。ですが、大規模なセンターの移転の現場を体感できたことも後年の私にとっては武器となりました。

いま、株式会社スカパー・カスタマーリレーションズ様の会社沿革のページを見ると、この時のことが年表に残されています。それによるとセンターの移転は2001年の5月とあります。そして、プライバシーマークの取得は2003年6月とあります。その間に行われたのが、日韓共催ワールドカップです。

日韓共催ワールドカップ。それはカスタマーセンターにとって巨大な祭りでした。その話はまた次回に。ゆるく永くお願いします。

[writer-nagai]

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